研究課題/領域番号 |
15K19549
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
佐々木 知幸 山梨大学, 総合研究部, 助教 (40739124)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | CLEC-2 / ロドサイチン / 血小板 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,心筋梗塞・脳梗塞,癌の予防や有効な治療を目指した抗血小板薬および抗転移薬として可能性のあるCLEC-2 を標的とした分子標的治療薬(抗CLEC-2薬)の開発を目指し,CLEC-2 結合低分子量化合物,およびCLEC-2 結合能を持つが血小板活性化能を欠く変異組換えロドサイチンの抗血小板効果および抗癌転移効果の検証を行い,実用化に向け最適化することである. 1.CLEC-2 結合低分子化合物Nの抗血小板薬・抗転移薬としての可能性を,二つのマウスモデルで検討した.(1)マウス大腿動脈塩化鉄傷害モデルでは,化合物Nの静注投与による血管閉塞時間が延長し,予備検討での抗血小板作用と一致した結果を得た.(2)マウス肺転移モデルでは,化合物Nの静注投与により癌細胞の肺転移が顕著に抑制された.以上の結果は化合物Nが抗CLEC-2薬として有望であると判断し,化合物Nの製造方法について特許出願した(特願2016-000267). 2.低分子化合物以外のCLEC-2 結合分子の探索として,CLEC-2 結合蛇毒ロドサイチンに注目した.蛇より得られる天然ロドサイチンと同等の機能を持つ遺伝子組換えロドサイチンの作製には成功している.その製造方法は特許出願しており(特願2015-053625),公開日は2016年9月17日予定である.さらに,点変異や部分欠損変異ロドサイチンを作製し,CLEC-2との結合部位,ロドサイチン自身の複合体形成のための責任部位を同定した.これらの実験結果に基づいて,抑制型のロドサイチン変異体の作製に成功した(特願2016-094203).このロドサイチン変異体は,ヒト血小板において凝集を惹起する終濃度10nMロドサイチンを,少なくとも3nMで完全に抑制する極めて強い機能を持つ.さらに,結合部位のみを含むペプチドを作製し,その機能を検討している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の計画では,①CLEC-2結合低分子化合物NとPの抗血小板薬・抗転移薬としての可能性の検討,②CLEC-2結合蛇毒ロドサイチンが抗CLEC-2薬の新たな創薬シーズになりうるのかの検証であった. ①について,化合物Pは色素成分であり,評価系に支障があったため,主に化合物Nについて,生体内評価であるマウス大腿動脈塩化鉄傷害モデルとマウス肺転移モデルを行った.結果は,いずれも静脈投与により,血栓形成の抑制および癌細胞の肺転移の顕著な抑制を示した.化合物Nの製造方法は特許出願した(特願2016-000267). ②について,すでに作製に成功している天然ロドサイチンの機能を保持した遺伝子組換えロドサイチンを使用した.すなわち,この遺伝子組換え体に点変異や部分欠損変異を施し,CLEC-2との結合部位や結合様式を解明し,抗CLEC-2薬作製の基礎データとすることを目指した.検証の結果,ロドサイチンは従来αとβサブユニットから成るヘテロ四量体と報告されていたが,実はヘテロ八量体であることが判った.また,CLEC-2との結合部位は,αサブユニットにあり,βサブユニットは結合には寄与していなかった.さらに,ヘテロ二量体,三量体,四量体となる変異体の作製に成功し,そのうちヘテロ四量体変異体が,ロドサイチン惹起血小板凝集を強く抑制しており抗CLEC-2薬として極めて有望であることが判った.この変異体は,マウス肺転移モデルにおいても,癌細胞の肺転移を強く抑制していた.これらについても特許出願完了済である(特願2016-094203).さらに,結合部位のみを含むペプチドを作製し,その機能を検討している. 以上のことより,①の進展状況は80%,②の進展状況は120%と判断し,研究計画全体の進展状況は100%と考え,おおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
1.化合物Nについて,本学生命環境学部の研究室の協力のもと側鎖基の置換や金属錯体の合成などの最適化を試みる.得られた化合物のCLEC-2と内在性結合パートナーであるポドプラニンとの結合抑制効果をELISAおよび培養細胞を用いたフローサイトメーターの評価系で確認後,血栓形成抑制効果をマウスモデルやin vitro 血小板凝集で,肺転移抑制効果をモデルマウスで検討する.また,骨髄腫細胞を同所移植して肺転移を起こす,より生理的な肺転移モデルを樹立し,最適化した化合物の転移抑制効果を検討する. 2.CLEC-2を介した血小板凝集を強く抑制するロドサイチン変異体の機能をさらに検証し,抗CLEC-2薬として最適化する.つまり,ロドサイチンは,蛇由来の外来タンパク質であるため,免疫原となり易いことが,薬として適応するための大きな問題点となる.これを可能な限り回避するために,40アミノ酸ほどのCLEC-2結合部位付近のみのペプチドを作製し,その機能を検証する.さらに,生体内での血中濃度を維持するために,免疫グロブリンIgGのFC領域を結合したCLEC-2結合ペプチドを作製し,血小板凝集能や肺癌転移の抑制効果を検証する. 以上について,今後研究段階から治験段階へと進展することを見据え,創薬研究のノウハウを持つ製薬会社との面談を行い,アドバイスを頂くとともに,提携を積極的に進める.特許申請も積極的に行い,それに続いて,論文発表する.
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