研究課題/領域番号 |
15K19560
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
梅本 晃正 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 特任助教 (50620225)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 造血幹細胞 / サイトカインシグナル / インテグリン |
研究実績の概要 |
造血幹細胞は造血システムにおいて、最も中心的な役割を果していることが知られているが、造血幹細胞の機能の制御機構においては未だに不明な点が多い。 これまでに、申請者らは αvβ3 integrin が Thrombopoietin (TPO) の存在に依存して造血幹細胞の幹細胞性の維持に寄与していることを示している一方、炎症性サイトカインであるinterferon-γ(IFNγ)存在下では、αvβ3 integrin は逆に幹細胞活性の抑制に働くことを見出している。従って、本研究では「αvβ3 integrin が双方向的に造血幹細胞活性を制御する機構の分子メカニズムの解明」を目的としている。 最初に、αvβ3 integrin がIFNγを介した応答に及ぼす影響を検討した結果、αvβ3 integrin を介したシグナルは、IFNγシグナルの最も中心的な下流分子である STAT1 の活性化を促進していることを見出した。さらに、αvβ3 integrin シグナルはIFNγ存在下では、STAT1を介した遺伝子発現を促進していた。一方、IFNγ非存在下(TPO存在下)では、αvβ3 integrin シグナルは STAT1 を介した遺伝子発現、および STAT1 のリン酸化に殆ど影響を及ぼしていなかった。重要なことに、IFNγは STAT1 の持続的なリン酸化を誘導する一方、TPO による刺激では一時的なリン酸化しか誘導されなかった。これらより、外部刺激によって誘導された STAT1 のリン酸化の状態に依存して、αvβ3 integrin は造血幹細胞活性を制御していることが示唆された。 このように、本研究で得られた成果は細胞接着を介した新しい造血幹細胞の制御機構を明らかにすると共に、体外での造血幹細胞の維持・増幅のための新規基盤技術の構築や、慢性炎症によって引き起こされる骨髄抑制や貧血などの造血器疾患の機序の解明に寄与するものであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、STAT1のリン酸化において、TPO と IFNγ が造血幹細胞に与える影響が異なることを示した。また、造血幹細胞において、integrin αvβ3 シグナルが IFNγ存在下でのみ、STAT1の活性化、および STAT1 を介した遺伝子発現を促進することも見出した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究実施計画通りに、STAT1欠損マウス由来の造血幹細胞を用いて、IFNγ存在下で培養した後、骨髄移植において、integrin αvβ3による幹細胞活性への負の効果に STAT1 が関与しているかを検討する。また、STAT1 はSTAT3やSTAT5と、機能的に競合していることが知られているため、STAT1以外の、これらのSTAT分子の活性化状態もTPO又はIFNγ存在下でどのような影響が及ぼされるかを検討する。さらに、in vivo においても、integrin αvβ3による双方向性の幹細胞活性の制御が機能しているかを検討するために、integrin β3 変異マウスを用いた移植実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
民間企業や財団からの研究助成を受けたため、当該助成金を想定より使用しなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
本助成金の次年度使用額は、まず、本研究に必要な動物の購入や維持費に充てる予定である。マウスの骨髄移植実験を計画しており、本年度の実績から推測すると、80万程度の費用が必要と考えている。また、国際学会への参加を2階ほど計画しており、概算として50万程度係ると推定している。さらに、熊本地震で本学の次世代シークエンサーが被害を被ったため、これを外注する必要がある。その経費にも充当したいと考えている。
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