造血幹細胞は造血システムにおいて、最も中心的な役割を果たしていることが知られているが、造血幹細胞制御機構においては未だ不明な点が多い。これまでに、申請者らはαvβ3 integrin がThrombopoietin(TPO)の存在に依存して造血幹細胞の幹細胞性の維持に寄与することを示している一方、炎症性サイトカインであるinterferon-γ(IFNγ)存在下では、αvβ3 integrinは逆に幹細胞活性の抑制に働くことを見出している。従って、本研究では「αvβ3 integrinが双方向的に造血幹細胞活性を制御する機構の分子メカニズムの解明」を目的としている。 最初に、αvβ3 integrinがIFNγを介した応答に及ぼす影響を検討した結果、αvβ3 integrinを介したシグナルは、IFNγシグナルの最も中心的な下流分子であるSTAT1の活性化を促進していることを見出した。さらに、αvβ3 integrin シグナルはIFNγ存在下ではSTAT1を介した遺伝子発現を促進していた。一方、IFNγ非存在下(TPO存在下)では αvβ3 integrin シグナルは、STAT1を介した遺伝子発現、およびSTAT1のリン酸化に殆ど影響を及ぼしていなかった。重要なことに、β3 integrin シグナルの障害はin vivoの造血幹細胞におけるIFNγの応答を著しく阻害した。これらより、αvβ3 integrin の造血幹に対する影響はSTAT1の活性化状態に依存していることが示唆された。 このように、本研究で得られた成果は細胞接着を介した新しい造血幹細胞の背魚機構を明らかにすると共に、体外での造血幹細胞の維持・増殖のための新規基盤技術の構築や、慢性炎症によって引き起こされる骨髄抑制や貧血などの造血器疾患の機序の解明に寄与するものと考えられる。
|