研究課題/領域番号 |
15K19562
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
内藤 忠相 川崎医科大学, 医学部, 助教 (50455937)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | HTLV-1 / HSF1 / 分子シャペロン / ATL / 遺伝子変異 / Tax |
研究実績の概要 |
HTLV-1は、感染細胞内で自身のウイルスゲノム複製を抑制しながら宿主細胞自体の増殖を誘導することで免疫系による排除メカニズムを回避しつつ、長期間にわたり宿主ゲノムに変異を蓄積していくことで最終的に一部の感染細胞を腫瘍化に導くと考えられている。申請者は、宿主細胞内の分子シャペロンタンパク質がHTLV-1感染細胞の癌化を誘導するゲノム異常を許容することで、腫瘍化への形質転換を助けていると仮説を立て解析を行った。293T細胞およびJurkat細胞を用いてHTLV-1がコードする転写制御因子であるTaxおよびHBZの誘導発現系を構築し、転写が活性化される宿主遺伝子について網羅的解析を行った結果、Tax発現によりHsp90、Hsp70およびHsp40などの分子シャペロンのmRNA発現量が顕著に増加することを明らかにした。先行研究の結果から、HTLV-1感染細胞の初期段階における染色体異常や遺伝子変異の蓄積を示す表現型は、Taxの発現のみで再現できることが報告されている。分子シャペロン遺伝子の転写の活性化がTaxの発現により促進されたことから、Taxが関与するHsps発現誘導はTax自身が誘引する染色体異常を潜在化し、腫瘍化の環境が整うまでの細胞恒常性の維持に寄与している可能性がある。特にHsp90は、変異タンパク質に結合することで細胞への悪影響を許容するキャパシターとして遺伝子変異を緩衝し潜在化させると考えられており、今後はHTLV-1感染細胞およびTax発現細胞においてもHsp90のキャパシター作用を含む分子シャペロンの機能が、Taxによって誘導される癌形質の獲得に寄与しているかどうかを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
293T細胞およびJurkat細胞を用いて、HTLV-1がコードする転写制御因子であるTaxおよびHBZの誘導発現系を構築した。DNAマイクロアレイ解析により、Tax発現細胞内において分子シャペロンタンパク質群(Hsp90、Hsp70、Hsp40など)のmRNA量が十数倍から数十倍のレベルで上昇する事を見出した。Hspsの遺伝子発現は転写因子HSF1(Heat shock factor 1)によって制御されている事から、HTLV-1感染細胞およびTax発現細胞株における分子シャペロンの機能意義を調べるため、熱ショック等のストレス刺激に依存しないHSF1の恒常的な活性化を迅速かつ可逆的に誘導できるドミナントアクティブ変異体(HSF1-dominant active mutant; HSF1-DA)発現系を構築した。膜透過性リガンドShield-1およびヒトFKBP12タンパク質変異体を活用したプロテオチューナー法によりHSF1-DAの発現を人為的に調節し、内在性HSF1の活性化の制御を可能にした。
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今後の研究の推進方策 |
HSF1-DA発現系をレンチウイルスベクターに組込み、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)に遺伝子導入を行うことでHSF1活性を制御可能な細胞株(PBMC/HSF1-DA)を選択する。PBMC/HSF1-DA細胞とHTLV-1感染細胞株(MT2やHUT102など)を共培養することでPBMC/HSF1-DA細胞を感染細胞へと形質転換させる。ウイルスゲノムがインテグレーションすることでTaxやHBZを発現するようになったPBMC/HSF1-DA細胞を選択し、HSF1の活性化レベルによって不死化細胞の割合が変化するか観察する。不死化した細胞について分子シャペロン遺伝子の発現を定量し、Taxが誘導する形質転換にシャペロンネットワーク機能が寄与しているかを検討する。また、HSF1遺伝子をknockdownするshRNAや、HSF1およびHsps阻害剤の存在下で細胞の継代を行い、分子シャペロンの機能抑制が与える不死化誘導の影響を検討する。それぞれの不死化した細胞について、核構造の変化、染色体の数や構造の変化、がん関連遺伝子に導入される変異について調べ、HSF1機能の活性化および不活性化が癌細胞の表現型に与える影響を考察する。
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