研究課題/領域番号 |
15K19566
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
住友 秀次 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (20392996)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | TGF-β3 / B細胞 / 抑制性サイトカイン |
研究実績の概要 |
今年度は、ヒトB細胞に対するTGF-β3の作用機序の解明を行った。TGF-β1によるヒトB細胞抑制の作用メカニズムの検討は、悪性リンパ腫由来の細胞株を使用したものがほとんどであり、初代培養のヒトB細胞を用いた検討は少ない。しかし、がん化の過程で、細胞のTGF-βへの反応性が変化することは多いことを考え、初代培養のB細胞を用いて、正常な免疫系におけるTGF-βのB細胞への作用メカニズムを検討した。IL-21と可溶性CD40リガンド(sCD40L)刺激下における、TGF-β3の作用を確認したところ、ヒトB細胞のIgG、IgA、IgMの産生を抑制し、ヒトB細胞の細胞死を誘導し、CD38high形質芽細胞への分化および増殖を抑制していた。また、TGF-β1、β3のトランスクリプトームへの影響をRNA-Sequencing(RNA-Seq)にて評価した。トランスクリプトームは大きく 変化しており、またTGF-β1とβ3による変化は類似していた。抗体産生細胞への分化に重要であるIRF4の発現は、いずれの刺激下においてもTGF-β3によって抑制された。また、Blimp-1、XBP1といった、抗体産生細胞への分化を担う遺伝子発現も抑制し、Sykのリン酸化を抑制することも明らかとなった。 一方、ヒトLAG3陽性制御性T細胞(LAG3+Treg)に関しては、フローサイトメーターの解析によって、疾患活動性の高い関節リウマチ患者の末梢血において、健常人と比較して有意に減少していることが明らかとなった。また、同一患者内での生物学的製剤(Abatacept)使用前後で、LAG3+Treg有意に増加することが明らかとなった。また、Abatacept投与によってLAG3+Treg様細胞が誘導されることが試験管内実験で明らかとなった。現在RNA-Seqによる追加解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で予定していた、健常人と患者におけるヒトLAG3+Tregの量的・質的差異比較については、Abataceptによる誘導も含めて関節リウマチ患者を対象とした実験がなされ、結果を得ており、現在論文投稿中である。 TGF-β3のヒトB細胞抗体産生抑制・増殖抑制についての解明は、今年度はIL-21と可溶性CD40リガンド(sCD40L)刺激されたヒトB細胞に対する解析を中心に順調に進み、Western BlottingやFACS、RNA-Seqの結果を得た。現在別の論文にまとめ投稿中である。 ヒトLAG3+TregのTGF-β3産生については、最終的な至適刺激条件が見つかっていないが、強い刺激下で産生することが確認されており、今後の解析をすすめていく。そのため、まだヒトLAG3+TregのTGF-β3産生阻害によるB細胞抑制能の障害については検討できていない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、TGF-β3のヒトB細胞抗体産生抑制・増殖抑制について、IL-21と可溶性CD40リガンド(sCD40L)刺激以外の刺激に対するTGF-β3の影響を見ていく予定である。SLEで重要とされているToll様レセプター刺激に対する影響を解明する予定である。 ヒトLAG3+Tregに関しては、TGF-β3産生条件を明確にし、B細胞の抗体産生能を抑制する機構について明らかにしていく方針である。 TGF-β3を作用させた刺激B細胞や、ヒト患者検体としてのLAG3+Tregについては、RNA-Seqを行い遺伝子発現解析を進めていくこととしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入金額の端数などの調整により、459円が残額として残った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は459円と少額ではあるが、抗体試薬代の補助に使用する予定である。
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