研究課題/領域番号 |
15K19584
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安達 英輔 東京大学, 医科学研究所, 助教 (80725804)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 粘膜免疫 / マイクロビオーム |
研究実績の概要 |
HIV感染者は健常者と比較して,あるいは免疫不全の高度なHIV感染者は軽度な者と比較して,胃炎が少ないことを示唆する報告がある。胃体上部大彎および幽門前庭部大彎より胃粘膜を採取し、病理学的な胃炎の評価と、組織学的H.pylori感染診断を行った。同時に採取した末梢血単核細胞を用い腸管遊走性(CCR9+integrin β7+)CD4陽性T細胞とそれらのヘルパーT細胞サブセット(Th1,Th2,Th17,Th17/1;IFN-γproducing Th17)比率と絶対数をフローサイトメトリーで解析した。CD4数、ARTの有無、年齢、AIDS発症歴、検査時のPPI使用についての多変量解析ではH.pylori感染者はAIDS発症歴と関連を認めた(OR 0.26, p=0.013)。本研究ではHIV感染者のピロリ菌感染は年齢など、既知のリスク因子との関連は明らかでなかった。HIV感染者では粘膜免疫破綻により ピロリ菌感染が維持されにくくなることが示唆された。Sydney systemとよばれる病理学的な胃炎の評価項目で胃体部への好中球浸潤を認めたものを活動性の胃炎とすると、胃炎群の91.7%はピロリ菌陽性で、非胃炎群と比較し、腸管遊走性CD4陽性T細胞の絶対数が有意に高値であった。HIV感染者の一部では腸管遊走性CD4陽性T細胞の絶対数の減少を認め、胃炎が少ないことを示唆する.ヒトにおけるピロリ菌関連胃炎の成立には粘膜免疫の維持が必要であることを示唆する結果が得られた。HIV感染症の胃炎の成立について腸管遊走性CD4陽性T細胞を解析した報告は初めてのものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、解析可能な検体の数を集めることができ、これらを用いた研究の成果については、2016年エイズ学会、2017年春の感染症学会で発表を行なった。胃体上部大彎および幽門前庭部大彎より胃粘膜を採取し、Sydney systemによる評価と、組織学的H.pylori感染診断を行った。同時に採取した末梢血単核細胞を用い腸管遊走性CD4陽性T細胞とそれらの4ヘルパーT細胞サブセット(Th1,Th2,Th17,Th17/1;IFN-γproducing Th17)比率と絶対数をフローサイトメトリーで解析した。更に胃粘膜から抽出した16S rRNA のPCR産物でメタタキソノミー解析を行った。。Sydney systemの評価項目で胃体部への好中球浸潤を認めたものを活動性の胃炎とすると、胃炎群の91.7%はHp陽性で、非胃炎群と比較し、腸管遊走性CD4陽性T細胞、およびそのTh1、Th17/1の絶対数が有意に高値であった。全末梢血中のTh1数や腸管遊走性Th17数には有意な差を認めなかった。HIV感染者の一部では腸管遊走性CD4陽性T細胞の絶対数の減少を認め、胃炎が少ないことを示唆する.ヒトにおけるHp関連胃炎の成立にはTh17よりTh1の寄与が大きい可能性を示唆した。当研究はHIV感染症の胃炎の成立条件や、ピロリ菌感染の維持に関する因子の探索を目的としていたが、一部についてはすでに結果が得られており、マイクロビオーム解析などの今後の研究の道筋を立てることができた。
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今後の研究の推進方策 |
胃炎は,ピロリ菌感などの病原体側の要因に加え、細胞性免疫もその成立に重要である.マウスやin vitroの検討でHp関連胃炎とTh1,およびTh17の関与が報告されているが,ヒトにおいて,いずれの寄与が大きいか結論は出ていない。来年度は本研究のこれまでの成果を、学術誌や国内外の学会で発表していく。さらに、今後は胃のマイクロビオーム解析を進めていく予定としている。これまでの予備的な実験で、16SリボゾームのV3-V4領域を増幅して、次世代シークエンサー解析した。。11人のHIV陽性患者検体で、これは組織学的にはピロリ菌は観察されなかった患者でも、4人のPCR産物が得られた。一般的な胃のマクロビオームはあまり知られていないが、臨床的なピロリ菌陽性者では、ピロリ菌の遺伝子が大部分を占めるように検出されて、臨床的にピロリ菌陰性者では、複数の腸内細菌が検出されることが多い。本研究では36%なのでHIV感染者では全体的な菌量がすくない印象がある。現在は上記の検体以外についても増幅産物を解析中であるが、結果についてはマイクロビオームとHIV感染症の粘膜免疫不全との関連だけでなく、組織学的なピロリ菌検査などの臨床的な検査と、16sRNAによるマイクロビオーム検査による真のピロリ菌検査との違いなどについても調べていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでの結果でHIV感染症患者の一部では腸管遊走性CD4陽性T細胞の絶対数の減少を認め、ピロリ菌関連胃炎の成立にはTh17よりTh1の寄与が大きい可能性が示唆されている。この結果を学術論文や国際学会で発表する予定である。また異粘膜検体を用いて、細菌叢のマイクロビオーム解析を大分大学医学部環境予防医学講座と共同研究を行う方針に変更し、現在進行中である。これらの結果も学会及び、論文にて発表していく。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでの研究をさらに進めていく費用に加え、主にマイクロビオーム解析のために必要な、遺伝子の増幅実験、及び次世代シークエンサーを用いた解析のための費用に必要である。共同研究は遠方でもあり、検体の輸送費や打ち合わせの旅費についても使用する。また、研究成果を発表する予定があり、論文の投稿料、学会への旅費などにも使用する予定である。
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