昨年度まではHIV感染症における胃の粘膜を評価するため、末梢血の腸管遊走性リンパ球を調べてきたが、今年度は病原体の因子に注目して解析を行なった。近年、ピロリ菌が唯一の病原性微生物と考えられてきた胃でも、微生物叢が認識されるようになったが、粘膜免疫とピロリ菌・微生物叢の関連については不明である。感染初期より腸管粘膜免疫の破綻を認めるHIV感染症では、HIV感染症が慢性胃炎の進行に抑制的に働いている可能性が示唆されているが、微生物叢自体がピロリ菌の病原性を制御する直接的定着抵抗性や、微生物叢が宿主の免疫系を賦活化することでピロリ菌の病原性を制御する間接的定着抵抗性は明らかではない。そこで、本研究では、ピロリ菌と胃微生物叢による間接的定着抵抗性の解明を目的として、免疫抑制モデルとしてのHIV感染症におけるピロリ菌と胃微生物叢の解析を行った。東京大学医科学研究所附属病院に2014~2016年の期間に収集、保管されたHIV/AIDS感染95名の胃粘膜生検を用いて、細菌及び真菌由来のアンプリコン解析を行った。ピロリ菌陽性者の胃においては、ピロリ菌は科レベルで全菌種の90%程度を占めており多様性が低下していることが明らかとなった。また、CD4陽性T細胞数が200 cells/μl以上の群では、ピロリ菌の割合が高く、CD4陽性T細胞数が200cells/μl以下の群ではピロリ菌の割合が低いことが明らかとなった。この結果は、HIV感染者におけるピロリ菌と胃マイクロバイオームの定着抵抗性に関するクロストークを示唆していると考えられる。
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