研究課題/領域番号 |
15K19590
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
諸角 美由紀 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (40383559)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Streptococcus agalactiae / 殺菌効果 / 併用効果 |
研究実績の概要 |
併用による殺菌効果増強の解析:侵襲性感染症由来の肺炎球菌とβ溶血性レンサ球菌(GAS,GBS, SDSE)に対し,β-ラクタム系薬(ABPC, CTX)の最小発育阻止濃度(MIC)の2-4倍濃度と,微量濃度(1-2 μg/ml) のアミノ配糖体薬(GM, ABK)とを作用させ,2,4,6時間後の継時的生菌数の変化を測定した。β-ラクタム系薬を単独で作用させた場合と,アミノ配糖体薬を併用した場合,併用時には単独作用時に較べ101-103の明らかな殺菌効果の増強が認められた。臨床的に問題となっている耐性肺炎球菌(PRSP)と耐性GBS(PRGBS)においても明らかな併用効果が認められた。 β-ラクタム系薬とアミノ配糖体薬のいずれかを先に作用させ,2時間後にもう一方の薬剤を作用させた場合,あるいは両薬剤を同時に作用させた場合の殺菌作用を比較すると,β-ラクタム系薬を先行作用させた方が強い殺菌性が認められた。アミノ配糖体薬を先行作用させた場合には殺菌効果の増強は認められなかった。 透過型電子顕微鏡による形態観察:薬剤単独作用時と併用時の菌体内部構造の変化を透過型電子顕微鏡によって比較した。併用時の形態変化の観察では,β-ラクタム系薬による菌の伸長化と細胞壁の肥厚とともに,タンパク合成阻害によると考えられる菌体内低密度変化とそれに伴うDNA合成の明らかな異常と思われる変化が認められた。これらの形態変化は,先ずβ-ラクタム系薬の作用によりその作用標的である細胞壁が脆弱化し,膜に無数の間隙ができるため,その間隙を通してアミノ配糖体薬が菌体内へ取り込まれ,その標的であるリボソームへ結合してタンパク合成が阻害されると推定された。この仮説を立証するために,アミノ配糖体薬が確かに菌体内に取り込まれていることを証明する必要があり,2年目の研究課題として予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺炎球菌とβ溶血性レンサ球菌(GAS, GBS, SDSE)に対してβ-ラクタム系薬と微量濃度(2 μg/ml) のアミノ配糖体薬を併用すると,殺菌効果が増強されることを確認した。さらに併用効果を透過型電子顕微鏡による形態観察で確認した。単独時と併用時には殺菌性と形態変化の上で明らかな違いがみられたことが証明された。本研究はおおむね順調に進展している。今後は併用効果の得られるメカニズムを菌体内に取り込まれるアミノ配糖体薬の濃度を測定することによって証明する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本来,アミノ配糖体薬はグラム陰性桿菌に対する殺菌性は極めて優れているが,グラム陽性菌である肺炎球菌やβ溶血性レンサ球菌には無効とされてきた。それらの菌種では無効菌種ではアミノ配糖体薬を菌体内へ取り込む系,すなわちエネルギー依存系タンパクII(EDP-II)を保持していないことが理由と推定されている。今後の研究の進め方としては,アミノ配糖体薬が菌体内に取り込まれていることを液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計(LC/MS/MS)用いて証明する予定である。薬剤を作用させて培養した菌を集菌し,菌体を超音波処理した後、超遠心によって細胞壁成分等を除去した後、菌体内に取り込まれたアミノ配糖体薬の濃度を測定する。 また,肺炎球菌やβ溶血性レンサ球菌は多くの毒素を産生し,炎症反応が増強されるが,アミノ配糖体薬の併用によってタンパク合成が阻害されることによりその産生が低下することをマイクロアレイ等を用いて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験はおおむね順調に進んでおり、物品費が予定した額よりかからなかったため、使用額に差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の実験用の物品費に使用する計画である。
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