研究実績の概要 |
リポアラビノマンナン(LAM)は全抗酸菌種に発現する菌体表面糖脂質である。また、結核菌などの病原性抗酸菌はマンノースキャップ型LAM(ManLAM)を、M. smegmatisなどの非病原性抗酸菌はホスファチジルイノシトールキャップ型LAM(PILAM)を発現しており、病原性の有無によりLAMのキャップ構造が異なる。これまでに、結核菌はManLAMを利用して、貪食細胞における食胞へのリソソーム融合を阻害(食胞成熟阻害)し、殺菌を回避することが示唆されている。しかしながら、ヒトにおける分子機構については不明であった。 本研究では、ManLAMとPILAMとスフィンゴ糖脂質との結合を検討した。その結果、各LAMはラクトシルセラミド(LacCer)と特異的に結合する一方で、α1,2マンノース側鎖を欠失したM. smegmatis変異株(ΔMSMEG_4247)由来PILAMはLacCerと結合しなかった。また、ヒト好中球はΔMSMEG_4247株由来LAMをコートしたポリスチレンビーズは貪食しなかった。抗酸菌あるいはLAMコートビーズ貪食後の食胞会合分子群について、生化学的手法と電子顕微鏡を用いて検討したところ、非病原性抗酸菌M. gordonaeあるいはPILAMビーズを含む食胞ではLacCerとSrc family kinaseのHckが共局在していたのに対し、結核菌あるいはManLAMビーズでは共局在していなかった。以上の結果から、ヒト好中球はLacCerとLAMのα1,2マンノース側鎖との結合を介して結核菌を含む抗酸菌種を貪食することが分かった。その一方で、取り込まれた結核菌は、ManLAMのマンノースキャップ構造を利用して、食胞膜上におけるLacCerの脂質ラフトとHckの会合を抑制し、食胞成熟阻害を引き起こすと考えられた。
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