研究課題/領域番号 |
15K19605
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
伊川 泰広 金沢大学, 附属病院, 特任助教 (10722043)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | メチル化 / MLL遺伝子 / アポトーシス関連遺伝子 / CD10タンパク / MOZ遺伝子 |
研究実績の概要 |
本研究は予後が不良とされているMLL遺伝子再構成を有する乳児急性リンパ性白血病(MLL-R ALL)の病態解析と新規治療法開発を目的としている。MLL-R ALLではアポトーシスに関連する遺伝子がメチル化されていることが報告されており、エピジェネティクスに関連した遺伝子発現制御機構が本病態に関連していると推察される。 そこで、CD10タンパクを発現する急性リンパ性白血病細胞株(HAL-01)にMLL融合遺伝子を遺伝子導入することで、MLL-R ALLに特徴的なCD10タンパクの発現を低下を実現することが可能か検討した。また、MLL融合遺伝子の導入前後で既知のアポトーシス関連遺伝子のメチル化状態を検索し、どの遺伝子が病態に重要な役割を果たしているか検討した。 患者検体よりクローニングしたMLL-AF9融合遺伝子をレトロウイルスベクターに搭載しHAL-01に遺伝子導入を繰り返し行なった。遺伝子導入の成功はレポーター遺伝子であるGFPの発現で確認した。CD10タンパクの発現量をフローサイトメーターを用いて解析したところ、MLL-AF9融合遺伝子導入後のCD10タンパクの発現量は全く低下していなかった。その原因を文献検索より考察し、PU.1タンパクがMLL融合遺伝子をCpG領域にリクルートする事が推測され、HAL-01内でのPU.1タンパク発現レベルが低下していると推測した。現在、PU.1タンパクの発現を確認する系を立ち上げている。 また、MLL遺伝子と生物学的特性が類似するMOZ遺伝子の再構成を有する乳児急性骨髄性白血病症例(iAML)は自然寛解する症例がある。過去に報告のない新規MOZ-p300融合遺伝子を有するiAML症例のタンパク発現、遺伝子発現を解析し小児血液がん学会で報告した。本解析内容を活用し予後不良であるMLL-R ALLの新規治療法開発に繋げていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MLL-AF9融合遺伝子を遺伝子導入したHAL-01でCD10タンパクの発現が低下しなかった。低下しなかった原因を、文献検索を進めPU.1の発現レベルが関与しているのではないかと突き止めた。しかし、PU.1タンパク発現確認の系を立ち上げるのに時間がかかり、進捗状況はやや遅れている。今後、PU.1タンパクの発現解析を行い、原因を突き止めCD10タンパク発現を低下させる系を確立する予定である。 また、MOZ遺伝子再構成を有する乳児急性骨髄急性白血病の解析を開始したことから、前述の系の立ち上げに遅れた。しかし、MOZ遺伝子の解析は生物学的特性が類似しているMLL遺伝子解析において有用だと考えられ、この解析から得た知見を来年度の研究計画に応用していく。
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今後の研究の推進方策 |
MLL-AF9融合遺伝子が導入されたHAL-01の解析を進め、CD10タンパク発現が低下しなかった原因を突き止める。その一因としてPU.1タンパク発現が関わっていると考えられ、立ち上げたWestern法を用い系で解析を継続する。 また、MOZ遺伝子再構成を有する乳児急性骨髄急性白血病自然寛解症例のタンパク、遺伝子発現解析を追加して行い、分子生物学的類似性を有するMLL遺伝子とMOZ遺伝子の、決定的な生命予後の違いを検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
CD10タンパクの発現が低下しなかったこと、低下しなかった原因を解明することができなかったため、予定していた実験が進まず、次年度使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
CD10タンパク発現低下しなかったメカニズム解析をPU.1タンパク発現を中心に解析を進めていく。また、MOZ遺伝子再構成有する乳児急性骨髄性白血病のタンパク・遺伝子発現プロファイルを検索し、検索結果をMLL-R ALL細胞で比較検討していく。
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