臨床用ヒト人工染色体ベクターの構築を目指して、ヒト正常細胞内におけるゲノム編集技術(CRISPR/Cas9)を用いたヒト人工染色体ベクターの構築を試みた。前年度までの研究期間においてCRISPR/Cas9を用いたCHO細胞内での遺伝子挿入法に加え、テロメア付加による染色体切断法を実証した。またヒトiPS細胞内において、5-7%の切断活性を示すCRISPR/Cas9を作製した。 本年度は、ヒトiPS細胞内でX染色体を切断するためのテロメア付加用ベクターとして、相同組換え配列1kbp、テロメア配列1kbp、陽性選択マーカーPuromysine耐性遺伝子、陰性選択マーカーFcy;;Furを持つベクターを作製した。先のCRISPR/Cas9とこのテロメア付加用ベクターをエレクトロポーレーション法にて、ヒトiPS細胞へと共導入した。Puromysine、及び5-FCを用いて2週間選択培養の後、出現した薬剤耐性クローンの内24クローンを分取し、PCR解析を行った。いずれのクローンもPuromysine耐性遺伝子を保持していた。しかしながら、期待した染色体切断を示す組換えの発生は検出できなかった。また、ヒトiPS細胞を用いてうまくいかない場合の計画として、間葉系幹細胞における7番染色体に対する染色体切断も試みた。しかしながら、同様に24クローンのPuromysine耐性細胞株を得たが、PCR解析の結果ではPuromysine耐性遺伝子は保持していたが、目的通りの組換えを示すクローンは得られなかった。結果として、ヒト細胞内におけるヒト人工染色体ベクターの構築法は確立できていない。
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