研究課題/領域番号 |
15K19628
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
小島 華林 自治医科大学, 医学部, 助教 (00468331)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 自閉性障害 / 小胞体ストレス / CADM1 / SCTR / シナプス機能 |
研究実績の概要 |
我々はCADM1、GPR37、GPR85 等の遺伝子にASDの 病因と考えられる変異を報告した。シナプス接着蛋白CADM1の解析では変異を導入した培養神経細胞で変異蛋白により小胞体ストレスが誘導され樹状突起の伸長が妨げられた。また、CADM1 ノックアウトマウスの行動解析でASDの主症状を完全には再現できなかったことから、遺伝子変異によるシナプス蛋白のLoss of functionのみならず、遺伝子変異が誘導する小胞体ストレスがGain of function としてシナプス機能障害に関与すると推定し、以下の計画で研究を実施した。 (1) ASD 病因遺伝子変異が小胞体ストレス誘導へ与える影響の解析:ASD 病因遺伝子変異を持つ患者リンパ芽球に、小胞体ストレス誘導試薬を添加し培養後、回収した細胞を用いて小胞体ストレスマーカーの発現を解析し、小胞体ストレス感受性を検出する方法を確立した。CADM1(Y251S)変異を持つ患者リンパ芽球で小胞体ストレス感受性解析を行った結果、遺伝子変異を持つリンパ芽球は持たないリンパ芽球と比較し、小胞体ストレス感受性が高かった。 (2) ASD 病因遺伝子がシナプス機能に与える影響の解析:ASD 共通病態としてシナプス形成不全、シナプスバランスの乱れを想定し、CADM1、GPR37、GPR85の各病因遺伝子とシナプス形成、足場蛋白との結合の有無などの関連を改変マウス脳組織を用いて検討している。 (3)新たなASD疾患関連遺伝子変異の同定:セクレチン受容体(SCTR)遺伝子でASD疾患関連変異を同定した。またアレーCGHを用いてCNV同定を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【研究(1)】ASD 病因遺伝子変異が小胞体ストレス誘導へ与える影響の解析:CADM1 変異(H246N, Y251S)、GPR85 変異(M152T)をもつASD患者およびその家系のリンパ芽球を用いて、家系内において変異の有無で小胞体ストレス感受性に違いがあることを検出した。(方法)リンパ芽球に小胞体ストレス誘導試薬(ツニカマイシン)を1μg/ml 添加し、一定時間培養後、細胞を回収した。小胞体ストレスマーカーCHOPmRNA 発現量の変化を、リアルタイムPCR 定量し、変異を持つ患者リンパ芽球ではCHOPmRNA発現ピークが早期に現れ、小胞体ストレス感受性が高い事が示唆された。小胞体ストレス下でスプライシングを引き起こすXBP1mRNA のスプライシング産物の発現変化のRT-PCR 法での解析、小胞体ストレス蛋白質GRP78発現のWestern blot での解析でも、変異を持つ者のリンパ芽球で小胞体ストレス感受性が高いことを検出した。 【研究(2)】ASD 病因遺伝子がシナプス機能に与える影響の解析:ASD 病因遺伝子ノックアウトマウスおよび変異ノックインマウスの解析。野生型Cadm1(WT)マウス及びCadm1(Y251S)変異ノックインマウス(ホモ)の小脳における興奮性・抑制性シナプス蛋白の発現を組織蛍光免疫染色およびWestern blottingにより比較した。抑制性シナプスマーカーGABBR2がWTと比較し、ホモマウスで強く発現しており、シナプスバランスが抑制性に傾いている事が示唆された。 【研究(3)】新たなASD疾患関連遺伝子変異の解析:SCTR変異解析の結果、P90L、R2C、A245Tの変異を検出し、これらはコントロール群にはなく、ASD関連遺伝子変異の可能性が高い。
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今後の研究の推進方策 |
【研究(1)】ASD 病因遺伝子変異が小胞体ストレス誘導へ与える影響の解析:平成27年度の【研究(3)】で同定したSCTR 変異をもつ患者を含む家系のリンパ芽球を用いて、小胞体ストレス感受性解析を行う。また、変異を見出した遺伝子以外の変異の存在についての検討として、遺伝子変異を持つ患者のリンパ芽球を用いた次世代シークエンスを用いた全エクソーム解析を予定している。 【研究(2)】ASD 病因遺伝子がシナプス機能に与える影響の解析:ASD 病因遺伝子ノックアウトマウスおよび変異ノックインマウスの解析。CADM1 変異ノックインマウス、Gpr37 ノックアウトマウス、Gpr85 ノックアウトマウスの発達期脳組織(小脳・海馬等)で、興奮性・抑制性シナプスバランスの変化やシナプス形態変化を、病理学的もしくは免疫組織学的に解析する。各シナプス分子に結合する足場蛋白の変異解析、各遺伝子の変異蛋白と足場蛋白の結合解析、変異遺伝子発現変化の解析等により、ASD に共通する分子機構の同定を試みる。 【研究(3)】新たなASD疾患関連遺伝子変異の解析:平成27 年度に同定したSCTR 変異を培養神経細胞に導入し、変異がシナプスに及ぼす影響を解析する。aCGHで同定したCNVに局在する候補遺伝子について、他の患者での変異解析、機能解析等を継続する。また、NR1D1の変異に関し、子宮内エレクトロポレーション法による神経形成との関連等の機能解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度に予定していた遺伝子変異を持つASD患者のリンパ芽球を用いた全エクソーム解析をH28年度に変更した事より、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
CADM1変異、GPR85変異、GPR37変異、SCTR変異をもつASD患者リンパ芽球を用いた全エクソーム解析を行う。
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