研究課題/領域番号 |
15K19629
|
研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
川原 勇太 自治医科大学, 医学部, 助教 (10570385)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | T-ALL / 新規ABL1融合遺伝子 / ABL1 / UBAP2L / RNAシークエンス / RT-PCR |
研究実績の概要 |
1.RNAシークエンスによるT-ALLの新規ABL1融合遺伝子の同定 白血病細胞株の樹立がうまくいかなかったため、凍結保存してある患者の診断時の骨髄細胞からtotal RNAを抽出し、まずRNAシークエンスを行った。それにより、T-ALLの新規ABL1融合遺伝子のパートナー遺伝子として、1q21.3に存在するubiquitin associated protein 2 like(UBAP2L)遺伝子を同定できた。これは、当初パートナー遺伝子として想定していた、MLL遺伝子のパートナー遺伝子としてALLへの関与が既に報告され、T細胞分化にも関わるAF1q遺伝子とは異なっていた。UBAP2L遺伝子は造血幹細胞制御に重要と報告されており、T-ALLの発症にも関与している可能性が考えられた。 2.RT-PCRによるT-ALLの新規ABL1融合遺伝子の確定 RNAシークエンスの結果をうけて、凍結保存してある患者の診断時の骨髄細胞から抽出したtotal RNAを用いて、UBAP2L遺伝子とABL1遺伝子に設定したプライマーを用い、RT-PCRを行った。PCR産物のシークエンスを行い、UBAP2LとABL1遺伝子の融合遺伝子であることを確認した。UBAP2L遺伝子のexon24とABL1遺伝子のexon2が融合していた。UBAP2L遺伝子の白血病発症への関与の報告はこれまでにはなく、今後この融合遺伝子の機能解析を行うことは、白血病全体の治療戦略を立てる上で非常に意義がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、平成27年度にT-ALLの新規ABL1パートナー遺伝子を同定し、新規ABL1融合遺伝子の全長クローニングと発現ベクターへの導入を行う予定であったが、新規ABL1融合遺伝子の全長クローニングと発現ベクターへの導入はまだ行うことができていない。遅れている理由としては、白血病細胞株が樹立できず、RNAシークエンスを行ったため、それに時間を費やしたためである。また、現在は全長クローニングを遂行中だが、新規ABL1融合遺伝子として同定されたUBAP2L-ABL1融合遺伝子の全長がとても長く、全長クローニングの困難さとなっている。 一方、当初AF1q遺伝子を新規ABL1パートナー遺伝子として想定していたが、実際はUBAP2L遺伝子が同定されており、これは当初予定していたRT-PCRによる新規ABL1パートナー遺伝子の同定方法では、困難であったと思われる。この過程に関しては、RNAシークエンスを用いることによって短縮できたと考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
1.新規ABL1融合遺伝子の全長クローニングと発現ベクターへの導入:RT-PCRと制限酵素切断、ライゲーションによって、UBAP2L-ABL1融合遺伝子の全長のcDNAをクローニングし、ネオマイシン耐性遺伝子を含む発現ベクターに挿入する。このプラスミドを大腸菌に導入して増やし、十分な量の全長cDNAを含むプラスミドを得る。 2.マウス血球系細胞株にABL1融合遺伝子を導入する:作成したABL1融合遺伝子の全長cDNAを含む発現ベクターを、マウスIL-2依存性細胞株CTLL-2に導入し、ネオマイシンで全長cDNAを発現する細胞株をセレクションする。 3.新規ABL1融合遺伝子を導入したCTLL-2細胞株の機能解析 ①増殖能の解析:CTLL-2は増殖にIL-2を必要としIL-2非存在下ではアポトーシスに至る。新規ABL1融合遺伝子を導入したCTLL-2の細胞増殖を解析するために、トリパンブルー色素排除法を用いて、IL-2非存在下での生細胞数をカウントし、増殖曲線を作成する。②抗アポトーシス効果の解析:IL-2非依存性増殖能が抗アポトーシス効果によるものかどうかを調べるために、フローサイトメトリーを用い、アネキシンⅤの発現を解析する。③細胞周期の解析:IL-2非依存性増殖能が増殖シグナル亢進によるものかどうかを調べるために、フローサイトメトリーを用いDNA量を調べ、細胞周期の解析を行う。 4.新規ABL1融合遺伝子を導入したCTLL-2細胞株に対するTKIの増殖抑制効果の検証:新規ABL1融合遺伝子を導入したCTLL-2細胞株に対するTKIの有効性を調べるために、培養液にTKIを添加し、TKIによってCTLL-2細胞株の増殖が、どれくらいの濃度で抑制されるかどうかを解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度はRNAシークエンスによるT-ALLの新規ABL1融合遺伝子の同定およびRT-PCRによるT-ALLの新規ABL1融合遺伝子の確定を行うことができたが、全長クローニング、発現ベクターへの導入および細胞株への遺伝子導入は施行できなかった。クローニング関連費(発現ベクター、大腸菌、培養液、ライゲーションキット、制限酵素など)、細胞培養関連費(培養液、フラスコ、ピペット、サイトカインなど)を使用していないため、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、全長クローニング、発現ベクターへの導入および細胞株への遺伝子導入を行う予定であり、クローニング関連費(発現ベクター、大腸菌、培養液、ライゲーションキット、制限酵素など)、細胞培養関連費(培養液、フラスコ、ピペット、サイトカインなど)として使用する予定である。
|