研究課題
本研究では、家族性腫瘍症候群であるGorlin症候群(GS)における髄芽腫発症の分子基盤を明らかにすることを目的としている。今回、当院で経験したGS2症例と非GS3例を対象における髄芽腫の分子遺伝学的特徴の解析を進めた。平成27年度は上記5例を対象にGSに関連したソニックヘッジホッグ(SHH)シグナルの蛋白レベルの発現の差や、癌関連遺伝子の付加的変異の確認を行った。蛋白レベルの評価はSHHシグナルに関連する分子の抗体を用いた免疫組織化学的手法で進めたが、免疫染色の条件設定に時間を要した。癌関連遺伝子の網羅的遺伝子変異解析としてIon Torrent Protonを用いたCancer Panel解析を行った。その結果、GSに発症した1例においてはPTCH1変異を見出し、サンガーシークエンスでも同様の変異と対側アレルのLOHも確認した。本症例はGSに発症した髄芽腫としては珍しい退形成性髄芽腫であり、PTCH1変異から腫瘍の発生機構の一部は明らかに出来たが、それを更に悪性化せしめる因子を、それ以外の付加的遺伝子変として同定することまでは至らなかった。また、もう一方のGS症例ではPTCH1をはじめとしたSHH関連遺伝子に変異を同定できなかった。非GS症例でのCancer Panel解析は今後進めていく。
3: やや遅れている
新規抗体を用いた免疫染色の条件設定やFFPEサンプルからのDNA抽出での技術的な問題があり、実験の遅滞が生じてしまった。今後、予定していた免疫染色や網羅的遺伝子解析を進めていく。
平成28年度は、SHH系遺伝子変異を有すGSと変異を有さないGS、非GS症例を比較し、腫瘍化における細胞内シグナルの挙動の違いを、上記の免疫組織化学およびCancer Panel解析に加え、マイクロアレイ解析を用いて検討していく予定である。この結果を踏まえ、必要に応じ更に詳細な遺伝子解析や蛋白発現解析を加えて、詳細な検討を進めていく。ここで得られてた結果は、今後より治療が個別化されてくるであろうSHH関連髄芽腫において、特に分子標的薬や併用薬の適応を考えるうえでの貴重な治験になりうると考える。また、髄芽腫の世界的な分子生物学的4分類において用いられる免疫染色(GAB1、YAP1、Filamin A等)も評価項目として追加し、GS関連髄芽腫が既報のSHH群での免疫染色パターンと一致するか確認を進めていく。
平成27年度の研究は、研究施設における既存物品のみで多くの実験の準備・実施が出来たため、当初の予定経費よりも支出は少なかった。
平成28年度は遺伝子解析に必要な消耗品等の購入、またマイクロアレイ解析の外部委託、各種試薬の購入、学会参加費等に研究費を使用し、実験計画を実施していく予定である。
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