本研究では、Gorlin症候群(GS)における髄芽腫発症の分子基盤を明らかにすることを目的としている。今回、GSを伴う髄芽腫2症例を中心にソニックヘッジホッグ(SHH)シグナルに関連した分子遺伝学的特徴について解析した。まず、GSと非GSのSHH群髄芽腫で免疫染色(GAB1、YAP1、Filamin A、PTCH1、Gli1/2)とIon Ampliseqによる網羅的遺伝子解析を施行したが、明らかな差異は見い出せなかった。次に症例毎に詳細な解析を行った。PTCH1のGermline変異を有す症例では、腫瘍組織において末梢血で変異が見られたPTCH1の対立アレルのLOHを確認した。さらに、染色体検査やaCGH解析にて複数のマーカー染色体やdouble minuteを認め、さらにFISH法にてMYCNの増幅が確認された。PTCH1の2ヒットによって腫瘍化し、Chromothripsis(染色体破砕)を契機にMYCN増幅によって腫瘍細胞の異形成や播種、治療抵抗性獲得に繋がったと推察された。もう1例のGSの診断基準を満たした髄芽腫症例はPTCH1を含むSHH系のGermline変異は同定されず、腫瘍細胞においてもSHH関連遺伝子変異は認めなかった。本症例は異所性骨化部位があり、骨異形成関連遺伝子の探索の一環でGNASの機能喪失型変異を見出した。腫瘍細胞においても同様のGNAS変異と同部位のLOHを確認し、正常組織では体細胞モザイクであることを証明した。GNASはGsαを介しSHHシグナルの調整も担っていることから、本症例はPTCH1などのSHH上流分子には依存せずに恒常的にGli1/2を亢進しGSとしての表現型を呈したことが推察された。これらの解析を通して、SHH群髄芽腫の新規治療標的としてSHHシグナル以外にMYCやG蛋白関連シグナルなどが候補になりうる可能性が示唆された。
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