本研究の目的は、肺動脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hypertension:PAH)の新規疾患遺伝子を同定し、PAHの発症機序を解明することである。PAH患者が複数名存在する家系においてエクソーム解析を実施したところ、Y遺伝子の変異を検出した。このY遺伝子がPAHの新規疾患原因遺伝子である可能性を考え、機能解析を行うこととした。はじめに、siRNAを利用してこのY遺伝子をノックダウンしたところ、ヒト肺動脈平滑筋細胞(human pulmonary arterial smooth muscle cells :hPASMCs)の増殖能が低下すること、hPASMCsの核内p53およびp21の発現量が増加し、p53リン酸化が亢進することがあきらかになった。次に、変異Y遺伝子コンストラクトをhPASMCsに導入したところ、野生型Y遺伝子と比較して増殖能を亢進させ、核内p53およびp21の発現量を減少させ、p53リン酸化を減弱させることがあきらかになり、機能獲得型変異であることが示された。さらに、変異Y遺伝子はhPASMCsにおいて、アポトーシス細胞を有意に減少させることがあきらかになった。また、抗Y抗体を用いて免疫沈降を行ったところ、Yタンパクは野生型、変異型共にp53と結合しうることが示された。以上から、変異Y遺伝子はp53伝達経路の活性低下を惹起し、これによりhPASMCsが異常増殖すること、さらにhPASMCsのアポトーシスを抑制すること、この2つの機序からPAH発症を惹起する可能性を示すことができた。
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