研究課題/領域番号 |
15K19665
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研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
梶原 一紘 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 細胞医療研究部, リサーチアソシエイト (40569521)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 脊髄髄膜瘤 / ケラチノサイト / 3D上皮 / ラット |
研究実績の概要 |
脊髄髄膜瘤は先天的に脊髄周辺組織が欠損しているため、脊髄が体表に露出している。そのため、出生時にはすでに様々な不可逆的神経障害が存在する。約6人/1万出生数の割合であり、全例で下肢運動機能障害を生じ、続発するキアリ奇形と水頭症によって脳幹が障害を受ければ致命的となる。この神経障害を予防するために胎児治療が試みられている。しかし、現在の治療法では、根治に至ることはない。また胎児治療に伴う大きな子宮切開は早産や破水等の妊娠合併症のリスクを増加させることが問題となる。このため、胎児治療において、低侵襲で皮膚欠損部を覆い脊髄を保護する生体組織の開発が極めて有効である。そこで我々は羊水由来細胞からxeno free, feeder freeの条件下でiPS細胞を樹立した。このiPS細胞は未分化マーカーの発現、分化多能性の獲得、染色体検査等の特性解析を完了した。このiPS細胞をケラチノサイトへ分化誘導し、さらに空気暴露法で3D培養することで皮膚組織を作製した。この培養皮膚を脊髄髄膜瘤の皮膚欠損部に移植することで、より低侵襲な胎児治療を目指している。また、胎児皮膚の脆弱性による胎児手術の欠点を克服し、羊水を用いた自家移植を可能にしている。さらに有効性および安全性を担保する動物実験モデルの開発のため脊髄髄膜瘤モデルラットを作成した。現在は妊娠ラットに胎児治療を行い治療効果を検討している。本治療法が達成されれば、脊髄髄膜瘤のQOLを著しく向上できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表的な胎児疾患である双胎間輸血症候群およびダウン症候群患者由来の羊水を回収し、羊水細胞の初代培養に成功した。この羊水細胞は既存の報告と同様にフローサイトメトリーで間葉系のマーカーを確認した。この細胞にエピソーマルベクターで遺伝子導入しiPS細胞を樹立した。このiPS細胞は未分化マーカー(ALP染色、qPCR、免疫染色)の発現、分化多能性の獲得(EB形成実験、teratoma形成実験)、染色体検査等の特性解析を完了した。また、臨床応用にとって重要であるxeno free, feeder freeの条件においてもiPS細胞の樹立に成功している。 樹立したiPS細胞をレチノイン酸とBMP4を用いて効率的にケラチノサイト系列へ分化誘導する系を確立した。この分化誘導法で誘導したケラチノサイトは正常皮膚またはヒト培養ケラチノサイトと同等の上皮マーカーの発現を確認している(FACS解析、免疫染色、qPCR)。またさらに分化誘導したケラチノサイトを3D培養し、積層化されたケラチノサイトを確認した。また胎児疾患モデルとして、SDラットの妊娠10日目にレチノイン酸を経口投与し脊髄髄膜瘤モデルラットを作製した。このラットでは脊髄髄膜瘤と同様に皮膚、皮下組織、筋膜、脊椎、硬膜が欠損していた。そして現在脊髄髄膜瘤妊娠ラットに3D培養した皮膚の移植を行い、組織の生着及び皮膚の再生を評価している。本治療法が達成されれば、脊髄髄膜瘤のQOLを著しく向上できる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
作製した3D皮膚を妊娠ラットへ移植し、生後に組織の生着、皮膚の再生を確認する。また、より機能的な皮膚を再現するため、ケラチノサイトへの分化誘導効率を上昇させる因子を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
納期が年度内に間に合わなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度消耗品の購入に充当する。
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