脊髄髄膜瘤は先天的な皮膚や脊椎、硬膜等の欠損によって脊髄が体表に直接露出しているため、出生時にはすでに不可逆的な神経障害が存在する。神経障害予防のため直視下胎児手術が試みられ、一定の評価を受けたが、妊娠子宮を大きく切開することは早産や破水、胎盤早期剥離、子宮破裂などの重大な合併症が上昇する。そこで我々は羊水由来細胞からiPS細胞を樹立し、ケラチノサイトに分化誘導することで人工皮膚を作製し、さらに胎児期に移植するという低侵襲な胎児治療を開発することを目的とした。直視下胎児手術に比べる利点としては、胎児の皮膚の脆弱性による縫合困難を回避でき、より早い週数での治療が可能になる。さらに人工皮膚の生着は胎児の皮膚の成長に合わせた治療が可能であるため、全妊娠期間を通じた皮膚の被覆を可能にする。実際に我々は双胎間輸血症候群とダウン症候群の患者から羊水を採取し、初代培養を行った。さらに羊水由来細胞に初期化遺伝子を導入し、iPS細胞を樹立した。樹立されたiPS細胞を効率的にケラチノサイトに分化誘導するため、EGFとY-27632を用いた新たな分化誘導法を開発した。この方法で分化誘導されたiPS細胞由来ケラチノサイトは高い増殖能力を有しており、表皮のマーカーが陽性であった。iPS細胞由来ケラチノサイトを3D培養することによって積層化した人工皮膚を作製でき、基底層、有棘層、顆粒層のマーカーを確認した。この人工皮膚をレチノイン酸の経口投与によって作製した脊髄髄膜瘤モデルラットの妊娠20日目に移植した。生後に確認した新生仔ラットの皮膚欠損部ではラットの表皮が伸長している所見が得られたことから、iPS細胞由来人工皮膚は羊水中であってもラットの皮膚を再生できる可能性が示唆された。我々の胎児治療法は従来の直視下手術と比較してより低侵襲であり、また自己の皮膚の再生が期待できる画期的な治療法になり得る。
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