研究課題
当初の研究計画に則り、胎児先天性心疾患における臍帯血及び新生児血中ナトリウム利尿ペプチドの胎児心機能評価法としての意義、胎児心不全時における胎盤形態機能の変化に関して、症例を集積しながら検討を進めた。胎児心不全の基礎疾患及び病態毎に解析を行い、胎児心不全病態の多様性を示した有意義な研究成果と考えられる。以下に結果を示す。1. 胎児心疾患病態別の臍帯血、新生児血及び羊水のナトリウム利尿ペプチドの意義:胎児心疾患を発生学的、血行動態的に分類して、血中ナトリウム利尿ペプチド値を比較検討したところ、中等度以上の房室弁逆流を有する疾患、および不整脈症例(頻脈、徐脈)において、有意に高値を呈し、超音波検査法による胎児心不全の重症度と良好な相関性が確認された。逆に、単心室形態であっても、超音波検査法で心不全の所見がなければ、臍帯血中ナトリウム利尿ペプチド値は上昇しておらず、胎内では適応できていることが示唆された。羊水中ナトリウム利尿ペプチドに関しては、total ANP及びBNP値は極めて低く正常胎児との差も認めなかったが、NT-pro BNP値は心疾患児において有意に高く、胎児心不全の重症度と良好な相関性が確認されたことから、胎児心不全の新規バイオマーカーとして臨床応用できる可能性が示唆された。2. 胎児心疾患における胎盤臍帯の形態学的分類:胎児心疾患に伴う心不全症例の胎盤において、異形絨毛、絨毛内の有核赤血球、浮腫、線維化等の特異的な組織学的所見が見出された。これらは、胎児心疾患の形態異常と関連はなく、心不全の重症度と良好な相関性が認められ、胎児心不全に伴う二次的な変化が示唆された。3. 胎児心不全時の胎盤臍帯における特異的な遺伝子発現変化の検討:分娩時に採取した胎児心不全胎盤および正常コントロール胎盤をDNAマイクロアレイにて解析中である。
2: おおむね順調に進展している
胎児心疾患病態別の臍帯血、新生児血及び羊水中ナトリウム利尿ペプチドの解析、および胎児心疾患における胎盤臍帯の形態学的解析に関しては、順調に症例集積が進み、上述のように詳細な研究成果が得られた。胎児不全時の胎盤臍帯における特異的な遺伝子発現変化を臨床所見や本研究で得られた結果と比較解析中である。
本年度は、当センターバイオバンクに保存されている妊娠初期・中期・後期、産褥期の母体血を用いて、胎児心不全時に母体血中に流入する胎児胎盤由来cell-free RNAや蛋白分子を網羅的に検索し、胎児心不全の重症度と相関性が強い分子マーカーを同定する。同定された母体血中の胎児心不全マーカーを用いて、単施設もしくは多施設共同による前向き試験を実施し、その発症予知マーカーとしての有用性を検証していく。昨年度より実施している胎児不全時の胎盤臍帯における特異的な遺伝子発現変化を示した遺伝子について定量化を行い、胎盤機能評価法としての有効性を検討する。
胎盤臍帯のDNAマイクロアレイ解析が、当初の予定より低コストで実施することが可能であった為。
昨年度からの持ち越し額は、母体血中の胎児胎盤由来cell-free RNAや蛋白分子の網羅的解析に使用する予定である。
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