研究実績の概要 |
表皮基底膜蛋白である17型コラーゲン(COL17)は、表皮と真皮をつなぐ重要な構造を担っている。免疫寛容の破綻によってこのCOL17に対する自己抗体が血中に循環すると、全身の皮膚に水疱が生じる水疱性類天疱瘡(BP)という疾患を生じる。申請者とその他のグループは、BP患者抗体あるいはウサギ由来抗COL17抗体を培養表皮細胞に投与すると、細胞内のCOL17の量が低下することを見出した(Iwata et al., J Invest Dermatol 2009; Natsuga et al., J Immunol 2012)。本研究ではこの成果をもとに、BP患者抗体投与後の培養表皮細胞の遺伝子発現変化を網羅的に解析し、その後に起きている事象を解明することを試みた。BP患者抗体由来IgG(BP IgG)と正常人IgG(Normal IgG)を、それぞれヒト新生児由来培養表皮細胞に添加し、4時間後、24時間後でRNAを抽出した。抽出したRNAをマイクロアレイにて解析した。結果としてBP IgG vs Normal IgGで、p<0.05、Fold change>1.5の遺伝子群を抽出した。この結果、BP IgG群で発現が上昇している遺伝子が250個ほど抽出された。これらのうちGene Ontology(GO)が割り当てられているものについて、GO解析を試みた。BP IgG群で発現が上昇している遺伝子のうち、上位5つのカテゴリーは、metabolism(17%)、developmental processes(8.85%)、cell organization and biogenesis(8.09%)、transport(7.08%)、protein metabolism(5.06%)であった。BP IgG群で発現が上昇している遺伝子群のうち、transportが4位に見られているのは、BP IgGがCOL17と結合した後に、COL17が細胞内に取り込まれる事象と対応している可能性が高い。また、細胞内に取り込まれるCOL17は、細胞内で恐らくプロテアソームによって分解されることが想定されており、上位1位のmetabolismや5位のprotein metabolismの遺伝子群と密接に関わっている可能性が示唆される。
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