研究課題
平成27年度の研究実施計画書に沿って、ヒトiPS細胞由来のミエロイド系細胞に、細胞増殖促進因子のcMYCと細胞老化抑制因子のBMI1、MDM2を導入しin vitroで2-3ヶ月間増殖可能なミエロイド系細胞ライン(iPS-ML)を樹立した。この手法により治療に必要な十分数の細胞をin vitroで作成することが可能となった。さらに、iPS-MLに遺伝子改変により機能性をもたせるため、Ⅰ型インターフェロン(IFN-α、IFN-β)を遺伝子導入し抗腫瘍効果を持たせた細胞(iPS-ML-IFNα、iPS-ML-IFNβ)を作成した。これらの細胞からマクロファージ様細胞を分化誘導し、その抗腫瘍効果をヒトメラノーマ細胞を用いてin vitroにおいて検討した。樹立したiPS-ML-IFNα、iPS-ML-βについては、フローサイトメトリー解析による細胞表面分子の解析、ザイモサン貪食能解析による貪食能の解析、ELISAによるサイトカイン産生能の解析等を行い、その形態や細胞表面抗原、貪食能などが生理的なマクロファージの特徴を持つ細胞となることが確認できた。ヒト悪性黒色腫の細胞株を使った実験を用いて、iPS-ML-IFN-α、iPS-ML-IFN-βの抗腫瘍効果をin vitroで確認することができた。In vitroでの効果が確認できたため、平成28年度の研究実施計画書に沿ってiPS-MLの抗腫瘍効果の評価をin vivoで行った。将来的な臨床応用を目標とし、SCIDマウスにヒト悪性黒色腫細胞株を腹腔内に移植し、iPS-ML-IFN-α、iPS-ML-IFN-βの治療(腹腔内投与)による腫瘍増殖抑制効果を評価した。その結果、未治療群と比較し治療群では有意に腫瘍増殖を抑制できた。さらに、治療後の腫瘍組織の免疫組織学的解析により、腫瘍組織へのiPS-ML-IFN-α、iPS-ML-IFN-βの浸潤を確認することができた。腹腔内投与したiPS-ML-IFN-α、iPS-ML-IFN-βは、腫瘍組織局所に集積し、腫瘍局所で抗腫瘍効果を発揮できた。本研究で得られた結果を取りまとめ論文とし発表した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の目的は、進行期悪性黒色腫に対し遺伝子改変ヒトiPS細胞由来ミエロイドラインを用いた新規免疫療法の開発であり、iPS細胞を用いることのメリットは、治療に必要な十分数の細胞をin vitroで作成、準備でき、遺伝子改変を用いて細胞に機能を持たせることができることである。本年度は、研究実施計画書に沿って、in vitroの実験を遂行することができ、さらに翌年に予定していたin vivoの実験段階まで進むことができ、in vitro、in vivoのいずれにおいても、ヒトメラノーマ細胞におけるヒトiPS-ML-IFNsの抗腫瘍効果を確認することができた。さらに、iPS-ML-IFNsの腫瘍増殖・抑制に関わるメカニズム解明の一助として、フローサイトメトリー解析を用いた細胞表面分子の解析を行い、樹立したiPS-ML、iPS-ML-IFNα、iPS-ML-IFNβのphenotypeを解析したところ、遺伝子改変でI型IFNsを導入したiPS-ML-IFNsは、免疫を活性化し抗腫瘍的に働くphenotype(M1マクロファージ)となることがわかった。iPS-MLはIFNsを産生する事でM1マクロファージとなり、腫瘍局所でIFN自体の殺腫瘍効果も併せ抗腫瘍効果を発揮すると考えられ、iPS-ML療法は有効な進行期メラノーマの治療オプションとなると考えた。本研究で得られた結果は論文にまとめ投稿した。
今後、今回xeno-graft modelにおいてヒトメラノーマ細胞に対して抗腫脹効果が確認できたヒトiPS-ML-IFNα、iPS-ML-IFNβにおいては、その腫瘍抑制作用のメカニズムをさらに詳しく解明すべく、細胞障害性T細胞(CTL)アッセイを予定する。CTLアッセイは、熊本大学総合研究棟に導入されているイメージングサイトメーター(IN Cell Analyzer 2200)を用いて測定予定である。また、iPS-MLに遺伝子導入する抗腫瘍効果を高める分子としてIFN-α、IFN-β以外にも、IL-15、TRAIL、Fas-ligand等の検討も行っていき、さらに効果が認められた場合はその腫瘍抑制作用のメカニズムを解明していく。iPS-MLにIL-15、TRAIL、Fas-ligand遺伝子等の抗腫瘍効果を高める分子の遺伝子を導入し、その腫瘍抑制効果をin vitro、in vivoにおいて検討する。In vivoでの評価は将来的な臨床応用を目標とし、SCIDマウスにヒトメラノーマ細胞株を移植し、ヒトiPS細胞由来の遺伝子改変iPS-MLによる腫瘍抑制効果を評価する。効果があった場合はその腫瘍抑制メカニズムの解明のため、iPS-MLのフローサイトメトリー解析による細胞表面分子の解析やELISAによるサイトカイン産生能、ザイモサン貪食能解析による貪食能などを比較検討すること、免疫組織学的解析による腫瘍組織へのiPS-MLの浸潤の確認などを行う。なお、本研究の実験系は、T細胞、B細胞を欠く免疫不全マウスを用いたxeno-graft modelで行う実験であり、将来的な臨床応用を目標とし、ヒトiPS細胞由来のiPS-MLのヒトメラノーマに対する増殖抑制効果を評価することを目的としている。よって、実際に免疫細胞が存在する環境において、投与するiPS-MLのホストの免疫細胞に対する影響と相互作用を評価することが必要である。本研究で腫瘍抑制効果が確認できたため、今後は免疫が正常なマウスでのallo-graft modelを用いたマウスiPS細胞由来のiPS-MLの効果を評価する実験系を予定する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
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