研究実績の概要 |
我々は、放射線誘発線維症に関連する遺伝子発現メカニズムを解析することを研究目的とし、細胞外マトリックスの主成分であるI型コラーゲンについて、放射線により発現が増加し、その発現増加にTGF-β/Smadシグナル伝達が関与することを見出してきた。 さらに、転写後に遺伝子発現を抑制すると考えられるmiRNAについて検討したところ、放射線によりmiR-29の発現が減少していた。そして、I型コラーゲンの発現についてmiR-29の関与を調べた結果、α1鎖遺伝子・α2鎖遺伝子ともに、それらの3’UTR領域にmiR-29との結合領域が存在し、miR-29が転写後のI型コラーゲンの発現調節に大きく関与することが分かった。一方、放射線により、miR-29によるI型コラーゲンの発現抑制が緩和されており、これらの結果より、放射線によるI型コラーゲンの発現増加にmiR-29の関与が考えられる。 次に、放射線によるmiR-29の転写調節機構について調べた結果、miR-29をコードする遺伝子の転写開始点から下流の+1,030 bpから+1,492 bpまでの領域で、転写活性が減少し、miR-29の転写調節機構に負の転写調節を行う領域が存在することが分かった。この負の領域に結合する転写因子について調べた結果、TGF-β/Smadシグナル伝達の主要因子であるSmadが、その領域に結合することが分かった。さらに、miR-29の転写調節へのTGF-β/Smadシグナル伝達経路の関与について調べた結果、放射線によるmiR-29発現減少にTGF-β/Smadシグナル伝達経路が負に作用することが分かった。 これらの結果より、miR-29によるI型コラーゲンの発現抑制が、TGF-β/Smadシグナル伝達経路を介して放射線により緩和され、その結果、転写後においてもI型コラーゲンの発現が放射線により増加することが明らかになった。
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