研究課題/領域番号 |
15K19700
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
稲葉 豊 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (00647571)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 自己炎症性疾患 / プロテアソーム / IP-10 / 中條ー西村症候群 / JAK/STAT |
研究実績の概要 |
既報のCANDLE症候群との相違を明らかにするため、前年度に滞った「健常者末梢血から単離したCD14+単球にIFNγを添加して12時間後まで経時的に細胞を回収してM-Perにて溶解しSDS-PAGEに展開して抗リン酸化STAT1抗体を用いてウェスタンブロットを行い、陽性バンドを得る」ことから実験を開始したが、患者の通院に合わせた採血に依存するため実験が思うように進まず、また予想される大きさのバンドは遂に見られなかった。そこで各人の末梢血にEBウイルスを感染させて作成した不死化B細胞を用いて再度抗リン酸化STAT1抗体を用いたウェスタンブロットを行ったところ、やはり前回と同様に患者2名と健常者ともにIFNγ添加24時間後をピークに陽性バンドを検出し、その間に明らかな差異を認めなかった。そこで、コントロールとして抗β-actin抗体を用いたウェスタンブロットを行い、全タンパク量に差異がないことを確認した。一方、リン酸化のコントロールとして抗STAT1抗体を用いたウェスタンブロットを行ったが、有意なバンドは見られず、リン酸化の割合を正確に評価することはできなかった。 次いで、STAT1の上流にあるJAK1のリン酸化について検討するため、抗リン酸化JAK1抗体を用いたウェスタンブロットを行ったところ、患者2名でIFNγ添加12時間後をピークに陽性バンドを検出したのに対し、健常者では明らかな陽性バンドを認めなかった。そこで、リン酸化JAK1のユビキチン化を確認するため、抗ユビキチン抗体を用いたウェスタンブロットを行ったが、リン酸化JAK1と同じ位置にはバンドは見られなかった。現在、抗リン酸化JAK1抗体を用いたウェスタンブロットの再現性の確認と、抗JAK1抗体を用いたコントロール実験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
交付申請時の、「NNS患者と健常者の末梢血からpositive selectionにてCD14+単球を単離し、24時間後に培養上清中にIP-10の産生が確認された10IU/mlのIFNγを添加して、15分から24時間後まで経時的に細胞を回収する。細胞膜、細胞質と核成分に分けて抽出し、可溶画分中の蛋白質が等量になるように分注して凍結保存し、適宜SDS-PAGEに流してメンブレンに転写し、冷蔵庫で保管する。これらのメンブレンを用いて、IFNGR1, IFNGR2, JAK1, JAK2, STAT1, SOCS-1とそのリン酸化物の抗体を用いてウェスタンブロットを行い、それらの発現量の変化を網羅的・定量的に検討する。患者単球と健常者単球の結果を比較することで、プロテアソームがIFNγ-JAK/STAT経路のどの部分に作用しているかを明らかにする」という研究計画に対して、キーとなる患者末梢血由来単球の解析が十分にできず、予定通り計画を遂行できていない。代わりに不死化B細胞を用いたウェスタンブロットを行い、予想に反してリン酸化STAT1には差がなく、むしろリン酸化JAK1に差があるという結果を得た。この結果は、CANDLE症候群とは異なるIFNシグナル異常の存在を示唆するが、転写に依存したIP-10の発現亢進があるならSTATのリン酸化に差があるはずで、再現性の確認を含め、更なる検討が必要である。これらの結果を日本研究皮膚科学会第41回年次学術大会総会と76th Annual Meeting of the Society for Investigative Dermatologyにて報告し、研究遂行に対して助言を得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、不死化B細胞を用いた解析に焦点を絞り、IFNγ刺激に応じてIP-10産生が亢進していることの確認から実験を開始する。これまでの実験で凍結保存しておいた培養上清のELISAにより、NNS患者由来不死化B細胞でのIP-10産生が健常者由来細胞より亢進しているか検討し、陽性所見が得られれば、細胞からmRNAを抽出してRT-PCRを行ってIP-10の産生が転写レベルで亢進していることを確認する。転写に依存したIP-10の発現亢進があるなら、STATのリン酸化に差があるはずで、リン酸化STAT2のウェスタンブロッティングの検討、さらに核蛋白だけ抽出してのリン酸化STAT1とリン酸化STAT2のウェスタンブロッティングを行う必要がある。これらの実験で転写因子の変化を確認したうえで、その上流にあるリン酸化JAK1・JAK2、さらにIFNGR1・IFNGR2、制御因子であるSOCS-1とそのリン酸化物の抗体を用いてウェスタンブロットを行い、抗体のチェックとともに細胞蛋白質全体での差異を検討する。これらの中で差があるものが見つかれば、そのユビキチン化の有無について検討する。特に、in vitroの遺伝子導入実験において、JAK2がIFNγ刺激後直ちにリン酸化・ユビキチン化を受けることが示されていることから、リン酸化JAK1とJAK2について免疫沈降を行い、そのポリユビキチン化の有無を明らかにする。トラブルシューティングの方向は明確であり、早期にクリアして計画に追いつくことを目指している。 以上の研究により、NNSにおけるIFNγ-JAK/STAT経路の異常が明らかとなれば、次なるステップとして、その回復法の検討も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況と今後の推進方針に記載したように、交付申請時の「NNS患者と健常者の末梢血から単離した単球にIFNγを添加して経時的に回収し、細胞膜、細胞質と核成分に分けて抽出し、IFNGR1, IFNGR2, JAK1, JAK2, STAT1, SOCS-1とそのリン酸化物の抗体を用いてウェスタンブロットを行い、それらの発現量の変化を網羅的・定量的に検討して患者と健常者の結果を比較することで、プロテアソームがIFNγ-JAK/STAT経路のどの部分に作用しているかを明らかにする」という研究計画に対して、キーとなる患者末梢血由来単球の解析に手間取り、予定通り計画を遂行できなかったために、平成28年度に予定していた実験の多くを29年度に繰り越すこととなった。支出も計画通りとせず実験の遂行に合わせて行ったため、消耗品費の多くを29年度に繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越額はすべて消耗品費に追加し、抗体や各種試薬、器具の購入に充てる。
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