本研究の目的は毛包をとりまく間葉系細胞の毛包発生シグナルに対する反応を明らかにし、それを応用し毛包再生を促す基礎的技術の確立である。前年度までの検討でヒト健常皮膚由来線維芽細胞は他の毛包由来細胞と比して特異的なFGF発現プロファイルを有し、毛包発生に重要なWNTシグナルの活性化によりそれをFGF7の低下、FGF9の上昇に代表される毛包促進的なものに変化させる事が明らかとなった。また、毛乳頭細胞へのFGF7、9の添加により毛包新生に重要とされる遺伝子の発現が変化することが確認された。 本年度は特にFGF7、9に着目し、その毛包再生促進効果を検証した。まずWNTシグナル活性化因子CHIR99021の添加によるFGF7、9の発現変化がタンパクレベルかつ濃度依存性に起きることを明らかにした。次に毛乳頭細胞へのFGF7、9の添加実験を、ケラチノサイトとの共培養下で行い、単独培養時と同様の重要遺伝子の上昇傾向を確認した。また、ケラチノサイトにFGF7、9を添加し、単独培養、毛乳頭細胞との共培養下での重要遺伝子の発現変化を検証したところ、TRPS1やKRT75などの遺伝子の有意な発現変化が共培養時にのみ認められた。さらにFGFの毛包再生に与える影響をin vivoで検証すべく、マウス背部皮下に移植したチャンバー内にマウス胎児皮膚より分離した真皮・表皮細胞を混合移植し、FGF7、9を2週間投与後に、再生上皮の毛包再生効果を検証したところ、FGF9投与群では他群に比して早期に毛包再生が確認され、再生毛包数、毛包直径ともにコントロール群を有意に上回ったのに対し、FGF7群では再生毛包直径が有意に小さかった。 以上より、ヒト頭皮由来線維芽細胞は局所のWNTシグナル活性化に伴い毛包再生に促進的な微細環境形成に寄与することが示唆された。その特性はヒト再生毛包の実現に活用できる可能性があると期待される。
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