本研究では、メラノーマが創傷部に転移する現象の機序を解析した。創傷部転移を生じた症例のマイクロアレイ解析、免疫染色により創傷転移部では創傷治癒に関わる細胞外マトリックスのペリオスチン(POSTN)、I 型コラーゲン、フィブロネクチンが間質で強発現していることを明らかにした。メラノーマ細胞を足底に移植したマウスの大腿部に傷をつけると創傷部に転移巣が形成され、転移巣周囲の組織にPOSTNの強発現を認めた。傷を付けなかったマウスは転移巣を形成せず、マウスもヒト同様、創傷治癒によりメラノーマの転移巣の形成が誘導されることが示された。POSTNやCOL-I、FNを底面に付着させたプレートにマウスやヒトメラノーマ細胞株を反応させ、それぞれの細胞外マトリックスがメラノーマ細胞に及ぼす接着能、遊走能、増殖能に与える影響を調べた結果、POSTNは増殖には影響を与えず、COL-I、FNよりも有意にメラノーマ細胞の接着能を低下させ、遊走能を上昇させる働きがあることがわかった。そこで、傷をつけずにPOSTNを大量に産生する骨芽細胞と培養上清を混ぜたマトリゲルをマウスの大腿皮下に注入したところ、注入部の皮下に転移巣の形成を認めた。POSTNはメラノーマ細胞を創傷部に誘引し、メラノーマ創傷部転移を促進させる前転移ニッチの重要な分子であることが示された。最近、皮膚転移に加え、メラノーマのリンパ節転移や肝転移の症例の60%でPOSTNが高発現していることが報告された。POSTNは創傷部への転移だけでなく、その他の転移巣への誘引にも関与する可能性が考えられる。今後POSTNを標的とした治療法の開発によってメラノーマのリンパ節転移や内臓転移の予防が期待される。また、POSTNの血中濃度がメラノーマのリンパ節転移や内臓転移を予測するバイオマーカーになる可能性も期待される。
|