①円形脱毛症患者の生体試料渉猟については、平成27~29年度に受診した円形脱毛症患者のうち、局所免疫療法を実施した患者9例に対し、治療開始直後(以下A点)と治療開始数ヵ月後(以下B点)の2点で皮膚生検を実施した。 ②ヒトとマウスにおける局所免疫療法に対する T 細胞と皮膚樹状細胞の細胞動態については、時間的、人的制約のため実験動物を導入できなかった。一方、①で渉猟したヒト試料に対しH&E染色を行った結果、A点、B点のいずれの検体においても、真皮血管周囲及び毛包周囲の炎症細胞浸潤が見られ、特に治療開始数ヵ月後の検体では毛包峡部周囲により稠密な炎症細胞浸潤が見られた。これに対しCD3、CD4、CD8、FoxP3、CD20、CD11c、CD163、Bcl-6、CXCL13、CCL21、MECA79 の抗体を用いた免疫組織化学染色を行ったところ、A点に見られる血管周囲性の炎症細胞浸潤の主体はT細胞であり、MECA79陽性の高内皮細静脈(HEV)はほぼ見られないのに対し、B点の検体に見られる毛包峡部周囲の細胞集簇は、T細胞、B細胞、真皮樹状細胞、M2タイプマクロファージ、胚中心B細胞から構成されており、HEVが有意に発達していた。これは三次リンパ組織の構造的特徴を満たしており、局所免疫療法によりヒトの皮膚にリンパ様構造であるiSALTが誘導されていることが明らかになった。この毛包峡部周囲に誘導された細胞集簇のプロファイルは、急性期円形脱毛症患者に見られる毛球部周囲の炎症細胞浸潤とは明らかに異なっていた。 そこで、iSALTの形成と治療効果との相関の有無を検証した。その結果、治療奏効例ではB細胞の浸潤細胞数とHEV数が有意に多かった。このことから、治療開始数ヵ月後に組織学的にB細胞浸潤ならびにHEV数を検証することで局所免疫療法の予後予測ができる可能性が示唆された。
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