研究課題/領域番号 |
15K19713
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
切原 賢治 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (80553700)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経オシレーション / 統合失調症 / 脳波 / ミスマッチ陰性電位 / グルタミン酸 |
研究実績の概要 |
健常者および統合失調症のハイリスク、初発期にある患者を対象に聴覚オッドボール課題を行い、その間の脳波を測定した。健常者は精神疾患簡易構造化面接法(MINI)を用いて精神疾患を有していないことを確認した。ハイリスク群は精神病前駆症状の構造化面接(SIPS)を用いた。統合失調症の診断には精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(DSM-IV)を用いた。陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)を用いて臨床症状を、機能の全体的評定(GAF)尺度を用いて機能障害を評価した。本研究は東京大学医学部倫理委員会の承認を得ており、全ての被験者に対して文書で説明を行い、文書にて同意を得た。 被験者に聴覚オッドボール課題を行い、その間の脳波を測定した。脳波の解析として、まずは事象関連電位の一つであるミスマッチ陰性電位(MMN)を調べた。聴覚オッドボール課題として持続時間(duration)を逸脱させた課題と周波数(frequency)を逸脱させた課題を行った。先行研究と同様に、duration MMNは統合失調症の初回エピソード群およびハイリスク群で健常対照群と比べて振幅減衰していた。一方、frequency MMNは統合失調症の初回エピソード群およびハイリスク群で健常対照群と比べて振幅の違いを認めなかった。以上の結果をふまえ、持続時間を逸脱させた聴覚オッドボール課題での神経オシレーションを解析した。その結果、統合失調症患者では神経オシレーションの同調作用および周波数間の相互作用のパターンが健常対照者とは異なることを見出した。 また、1年ごとに被験者の臨床症状の評価、脳波測定を行っている。縦断研究における脳波の解析としてまずはMMNから着手した。MMNは初回エピソード群、ハイリスク群、健常対照群ともにduration MMNとfrequency MMNの両方で振幅が変化しないことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、平成28年度は健常者および各臨床病期の統合失調症患者を対象に横断研究および縦断研究を行う予定であった。被験者は、健常者についてはMINI、ハイリスク群はSIPS、初発期の統合失調症患者はDSM-IVでそれぞれ評価して診断し、リクルートを進めつつある。患者の臨床症状と機能障害についてはそれぞれPANSSとGAFを用いて評価し、臨床指標のデータを蓄積しつつある。被験者から聴覚オッドボール課題中の脳波を測定し、脳波データも蓄積しつつある。脳波を解析してMMN振幅を計算し、横断面での群間比較を行い、先行研究の結果と一致することを確認した。神経オシレーションについても同調作用および周波数間の相互作用の解析を行い、横断面での解析を行った。被験者の1年ごとの臨床病期の判定、臨床症状の評価、脳波測定なども順調に進めており、MMNについては解析を行った。 リクルート、データの測定について予定通り進んでおり、横断面および銃断面での解析もおおむね予定通り進んでいる。当初の予定であった横断研究および縦断研究の結果が出つつあるため、これまでの進捗状況はおおむね順調に進展しているとした。一方、認知機能障害や分子病態との関連についてはデータを蓄積しているがまだ解析途中であり、当初の計画以上に進展しているとは言えないと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は横断研究を引き続き進める。健常者および各臨床病期の統合失調症患者のリクルートを進める。PANSSやGAFなどの臨床指標、聴覚オッドボール課題中の脳波、グルタミン酸系アミノ酸(グルタミン酸、グルタミン、グリシン、Dセリン、Lセリン)血中濃度、認知機能を測定し、データを蓄積する。それぞれの指標について解析を進めるとともに、脳波とグルタミン酸系アミノ酸、脳波と認知機能というように指標間の関連についても解析を進めていく。脳波については事象関連電位のみならず神経オシレーションの解析も行う。特に神経オシレーションの同調作用および周波数間の相互作用に注目して解析を行う。 今年度は縦断研究も進めていく。これまでに臨床指標、聴覚オッドボール課題中の脳波、グルタミン酸系アミノ酸(グルタミン酸、グルタミン、グリシン、Dセリン、Lセリン)血中濃度、認知機能を測定した健常者および各臨床病期の統合失調症患者を対象に、1年ごとにこれらの指標を再度測定する。事象関連電位についてはすでに解析をすませたが、今後は神経オシレーションの解析も進めていく。また、脳波指標とグルタミン酸系アミノ酸や認知機能との関連も調べていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度の予算に次年度使用額が生じたため、平成28年度は平成27年度の次年度使用額と平成28年度の当初の予算とを使用した。平成28年度に当初使用する予定の額を使用し、さらに研究を進展させて追加でも使用したが、それでも全額を使用できず次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は横断研究および縦断研究を行う。脳波の電極など脳波測定に伴う消耗品、被験者謝金や解析に必要な物品、学会出張や論文発表に際して費用が必要になる。これらの経費に対し本研究助成を使用する。
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