研究実績の概要 |
本研究は自閉スペクトラム症(ASD)児の社会性と母親の共感性を、縦断的質問紙調査と脳磁図を用いた神経生理学的指標の2つのアプローチにより解明することを目的としている。これまでの解析では、Mirror neuron systemの活動と関連するとされるMu suppressionが、母子の共感性や社会性の程度と相関することを明らかにした (Hasegawa et al., 2016, Scientific Reports)。この結果からMu suppressionを社会性の指標としてASD児と定型発達(TD)児の比較研究を行うための実験を行った。実験ではHasegawa et al.(2016) で改善すべき点として指摘されたコントロール条件の参加者間統制、脳磁図データの正確な信号源推定のための脳構造画像(MRI)の取得を新たに行った。2016年から2017年度にかけてASD群36組、TD群40組の母子をリクルートし実験を行った。そのなかから脳磁図データ・脳構造画像・社会性評価のための質問紙データが不足なく収集できたASD群20組、TD群25組の母子データを解析対象とした。リクルート人数に比べ解析人数が少ない理由としては、脳磁図撮影中に体動等が多すぎて解析に耐えうる質のデータが取得できなかったこと、MRIの撮像が困難だったケースが多かったことが挙げられる。低年齢児や自閉症児が安心して実験に取り組めるような環境づくりや教示の工夫の重要性を再確認した。解析では、最終年度はこれまで行った周波数解析に加え、脳のネットワーク構造を捉えるための非線形解析を取り入れ、対人インタラクション中に顕在化すると考えられる自閉症特性や母子の関係性を可視化するような解析手法の検討を行った。
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