研究実績の概要 |
1699名の統合失調症患者と824名の健常者を対象に高解像度アレイCGHを用いてゲノムコピー数変異(CNV)解析を実施し、7066個の稀な(<1%)CNVを得た。その中で、発症と関連するCNV(American College of Medical Geneticsの基準で判定)を患者153名(9.0%)、健常者26名(3.2%)で同定した。その上で、次の検討を行った。 1.臨床表現型解析:発症関連CNVをもつ患者108名の臨床表現型を後方視的に調べた結果、42%の患者で先天性疾患や発達上の問題を認めた。また抗精神病薬への治療反応性に関しては、発症関連CNVをもつ患者はそれ以外の患者と比較して、治療抵抗性を示す割合が有意に高いことを明らかにした(36% vs 17%, オッズ比=2.8, p=0.0036)。 2. 遺伝セット解析に基づく生物学的パスウェイの同定 患者と健常者で同定したCNVデータに基づいて、gene ontologyの遺伝子セットを用いて遺伝子セット解析を行い、患者CNVが優位に集積する生物学的パスウェイを探索した。その結果、53の遺伝子セットが有意(FDR q<0.01)になり、とくに31の遺伝子セットは既報の研究で関連が示唆されていた。これら31の遺伝子セットは、9つの機能的カテゴリー(oxidative stress response, genomic integrity, kinase, small GTPase signaling, synapse, cell adhesion等)に分類できた。この結果は統合失調症の分子病態の理解を深めるものである。特に酸化ストレスは既報で多数の報告があるが、本結果はその遺伝的基盤を明らかにした点で重要である。
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