本研究は脳損傷後に生じる高次脳機能障害に対して、社会復帰を促進するために認知リハビリテーションを中心とした介入を行い、その有効性および作用機序を検証することを目的としている。最終年度はH28年度に引き続き、高次脳機能障害患者の3テスラMRIによる機能画像・構造画像、社会認知を含めた神経心理学的検査・社会機能評価、リハビリテーション等各種介入の評価・社会生活評価を目的とした24時間生活活動評価を実施した。また外傷等により標準脳とは異なる構造的特徴を持った脳画像解析を行うため、California Institute of Technologyにおいて特殊な脳構造を持つ患者のMRI機能画像の解析における技術習得を行った。 研究期間全体を通じての成果は主に以下の3つである。1)健常群と比較した高次脳機能障害患の脳構造の異常:患者における構造変化の大きな特徴として脳梁の繊維数の減少が認められた。ただし脳梁が繊維連絡をしている両側の灰白質については、前頭葉内側面や楔部といった内側の構造体では体積低下が認められるものの、大分部の皮質構造は保たれることが明らかとなった。2)高次脳機能障害患者の社会生活に関連する認知機能障害・症状:リハビリテーションのアウトカムとしての社会機能を予測する因子として、脳損傷の重症度、年齢に加え、認知機能では処理速度と心の理論の能力が、症状では抑うつ症状・意欲低下・疲労が関連することが明らかとなった。3)社会認知に特化した認知リハビリテーションの有効性:Social Cognition and Interaction Training(SCIT)とSocial Skills Training用いたグループ訓練では、社会認知の基盤となる他者の表情認知が向上し、対象者自身における対人関係の問題の評価が改善するという結果が得られた。
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