統合失調症の社会認知障害は患者の社会機能に大きく影響し、かつ治療抵抗性であり、新たな治療法開発のため、その病態解明が急務となっている。社会知覚の一種であるbiological motion知覚は他者の動きの知覚であり、「視覚的注意―biological motion知覚―共感」という一連の認知過程が関わっているが、統合失調症ではこれらの認知機能が障害され、患者の社会機能とも関連する。 本研究では、統合失調症患者17名、対照健常者18名に対してアイトラッカーのディスプレイ上にpoint-light walkerを用いた動画刺激を提示し、biological motion知覚課題施行中の眼球運動を計測した。また、3T-MRI装置によりT1 強調 3D 構造画像および安静時fMRI を撮像した。構造MRI脳画像を用いて眼球運動、biological motion 知覚課題、共感の指標と、灰白質構造との相関を算出し、これらの認知機能の障害の神経基盤を同定した。統合失調症患者においてbiological motion知覚と視覚的注意に関連する脳部位を眼球運動計測およびvoxel-based morphometryを用いて探索し、それぞれの認知機能に関連する脳部位として上側頭溝と側頭頭頂接合部を検出した。いずれも社会脳と呼ばれるネットワークの一部であり、biological motion知覚が社会的知覚であることと矛盾しない知見が得られた。安静時 fMRI 画像はFSLを用いて前処理後、独立成分分析により注意ネットワークを同定し、ネットワークにおける機能的コネクティビティと、眼球運動、biological motion 知覚課題、共感の指標との相関を算出する解析が進行中である。本研究の知見は社会認知リハビリテーションの開発とその評価に役立つことが期待される。
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