本研究は、大阪大学医学部精神医学教室により、これまでに構築された「ヒト脳表現型コンソーシアム」にて蓄積してきた健常者および患者データを用い、同一サンプルにおいて、同時に複数の認知機能の網羅的なGWASを行い、さらに、同定した遺伝子多型近傍の遺伝子のネットワーク解析を行うことで、統合失調症の認知機能障害に特徴的な分子遺伝機構を解明することを目的としている。本研究により、統合失調症の新たなリスク遺伝子や遺伝子ネットワークを同定し、その機能を明らかにすることは、統合失調症の病態を解明し、新たな治療薬の開発のための基盤となるとともに、ヒトの脳における表現型に関連する遺伝子ネットワークを見出すことにもなり、臨床的に期待されるだけではなく、脳科学研究としても意義深いものであると考えている。 昨年度からサンプル数を拡大するために、さらに健常者100名のデータを追加して知的機能、記憶機能、注意機能、実行機能、社会認知など52種類の認知機能におけるGWASを網羅的に行い、認知機能に関わるSNPの同定を試みた。また、統合失調症患者100名のデータを用いて、replicationも追加して行った。その上で、これらGWASとreplicationの結果のメタアナリシスを行ったところ、記憶に関連する認知機能に関わるSNPが明らかとなった。さらに、統合失調症の認知機能障害に特徴的な分子遺伝機構を解明するために、同定したSNPの10kb以内にある遺伝子を選択し、遺伝子ネットワーク解析を行った。この結果、認知機能と関わりのあるグルタミン酸レセプターとの関連が示唆された。本研究は、認知機能障害に関わる分子遺伝機構の解明につながるものであり、今後の統合失調症の病態解明に大いに貢献することが期待される。
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