研究課題
統合失調症は、生涯有病率の0.6~1.9%と言われ、十分な治療法が確立されていない深刻な精神疾患である。NMDA受容体を介したグルタミン酸系神経伝達機能低下が統合失調症の有力な病態機序の一つと考えられている。このNMDA受容体の輸送にはKIF17(キネシンスーパーファミリータンパク質)が関与することが明らかとなっている。NMDA受容体に重要な役割を担っているKIF17の機能的な多型と統合失調症との遺伝子レベル、タンパクレベルにおいて相関研究では、KIF17 のアミノ酸置換を伴うSNPにおいてアレル頻度に有意な差を認めた。また死後脳から切り出した脳サンプルを用いて、ウェスタンブロッティング法を用いたタンパク定量においても二群間で有意な差を認めた。我々はKIF遺伝子及びNMDA受容体がシナプスの神経伝達や形態変化に与えている影響をiPS細胞を用いて解明することが本研究の目的である。当教室では健常人由来のiPS細胞を樹立した。健常対照群は患者群と年齢・性を一致させた健常人を選んだ。またiPS細胞から神経細胞への分化誘導実験系の確立も進めている。しかし、平成27年度は細胞の解析にまで至らなかったことから、表現系の解析実験は次年度以降の課題として残っている。
2: おおむね順調に進展している
KIF17と統合失調症の関連解析結果はすでに国際誌上にて発表している。しかし、神戸大学精神科では、幹細胞を用いた本研究課題の実施に必要な実験設備が十分に整備されていなかったことから、細胞解析等の研究課題の推進に遅れが生じている。
診断条件に合致する統合失調症患者の組織から作製したiPS細胞を用いて、神経細胞への分化誘導条件により神経細胞を作製し、神経の形態や遺伝子発現を健常群と比較し、神経科学的、精神薬理学的解析を行う。また、NPCを用いてKIF遺伝子をknock downし、NMDA受容体の発現解析等により神経細胞への分化に及ぼす影響や、病態解明を行う。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
Psychiatry Research
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doi:10.1016/j.psychres.2015.09.031
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Neuropsychiatric Disease and Treatment
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