研究課題
統合失調症は生涯有病率が0.6~1.9%のcommon diseaseであり、十分な治療法が確立されていない深刻な精神疾患である。統合失調症の病態機序として、グルタミン酸仮説が広く知られている。そこで申請者らは、NMDA受容体の輸送に重要な役割を担っているとされるKIF17と統合失調症との関連について、SNP関連解析、蛋白発現解析を行った。KIF17遺伝子上のアミノ酸置換を伴うSNP(rs2296225)について、慢性期統合失調症患者群と健常対照群のgenotypingを行ったところ、マイナーアレル頻度において、統合失調症群で有意に高いことを見出した。また統合失調症患者及び対照群の死後脳前頭前野組織を用いてKIF17蛋白の定量を行ったところ、統合失調症群においてKIF17蛋白の有意な減少を認めた。KIF17の減少が神経系細胞の増殖や分化、シナプス形成に及ぼす影響、またKIF17と抗精神病薬との関連を調べるために、新生仔マウス海馬由来神経前駆細胞およびアストロサイトの初代培養系を立ち上げた。神経前駆細胞においてKIF17遺伝子をRNAi法によりノックダウンし、FACSを用いたBrdUアッセイで増殖能を評価したが、有意な変化は認めなかった。現在、同様の処置が神経への分化に及ぼす影響について解析中である。また抗精神病薬や抗うつ薬の作用点として注目されているアストロサイトにクロザピンを投与し、KIF17 mRNA発現への影響を解析したところ、クロザピン(10μM)投与によりアストロサイトのKIF17 mRNA発現の有意な増加を認めた。ヒト由来iPS細胞の実験系については、ヒト由来iPS細胞から神経細胞への分化誘導の系を当実験室において確立できたため、今後引き続き、KIF17遺伝子の発現抑制等の操作を行った上で、iPS細胞から神経細胞への分化に及ぶ影響を解析する予定である。
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