研究実績の概要 |
慢性疼痛は一般人口の5 人のうち1 人にみられる非常に頻度の高い症候であり、ADL の低下、うつ病などの精神疾患の併発など身体・精神機能に大きな悪影響を引き起こす。抑うつや生活活動の制限といった心理社会的影響が疼痛の慢性化・難治化にかかわる主要因といわれており、抗うつ薬治療や認知行動療法など多面的治療が必要である。しかし現時点では両治療法の効果は十分とはいえず、更なる治療工夫が求められている。そのためには両治療法の治癒過程における神経科学的修復機構を明確にすることは大変重要である。本研究は慢性疼痛に対して抗うつ薬、認知行動療法の治療を行い、神経科学的修復機構の異同を明らかにすることを目的とする 【平成29年度】 慢性疼痛に対する抗うつ薬、認知行動療法前後での疼痛・精神症状・QOL、神経科学的評価のデータ収集を継続した。また蓄積されたデータを用いて解析を行い、何報か論文を投稿し受理された。まず慢性疼痛の症候形成において重要な要素である心理社会的要因について物理的刺激と感情刺激を用いて神経科学的メカニズムの一旦を解明した(Yoshino et al., 2017 Front Psychiatry)。さらに、認知行動療法の神経科学的修復機構として、眼窩面前頭前皮質や下頭頂小葉、中心傍小葉などの脳領域が関連していることを明らかにした(Yoshino et al., 2018 Psychol Med)。このように治療の有効性とその作用メカニズムに関する知見が蓄積されつつあり、今後更なる検証と研究の発展が期待される。
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