研究課題
現代社会に損失をもたらしている統合失調症患者の社会機能障害には顔認知機能の障害が大きく関与していると考えられる。本研究の目的は、統合失調症患者を対象に、脳磁図および機能的MRIを用いて、顔刺激処理に関する脳機能異常をより多角的に明らかにすることである。脳磁図では、顔刺激に対して特に大きく反応するM170という成分について解析を行い、統合失調症患者ではその振幅が減少していることが分かった。また、機能的MRIを用いて人の顔や表情を処理する脳機能を解析するにあたり、まずは妥当性のある表情刺激の作成を行った。具体的には、現在研究用として世界的に広く使われている顔・表情刺激は、非アジア人のものが殆どであるため、今回日本人の俳優を用いて、新たな顔・表情刺激用の写真の撮影を行い、Webアンケートを用いて100人以上の評価者によって妥当性の評価を行った。その結果で、意図された感情を表していると統計学的に有意にみなされた表情写真のみを用いて、機能的MRIの撮像を行った。機能的MRIでは、無表情の顔写真と、魚、車などの写真を呈示する「顔というものに対する反応を見る」タスクと、様々な感情を表した表情写真を呈示する「顔の表情に対する反応を見る」タスクの二つを行った。統合失調症群では帯状皮質周囲での血中酸素濃度に依存する信号が低下していた。また、“嫌悪感“を表した表情に対して、下前頭回周辺の信号の低下がみられた。今回の結果からは、統合失調症群では顔そのものに対する処理に関する神経回路の障害があると同時に、嫌悪感という特定の表情に対する処理についても健常者と違いのあることが示唆された。統合失調症患者では、周囲の人から嫌われているといった被害関係妄想を呈することが多く、今回得られた所見はこのような妄想の基盤となる神経回路を特定することにつながる可能性がある。
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