研究実績の概要 |
これまで、光の作用機序として、メラトニン分泌を抑制しメラトニン生合成の概日リズムをシフトする可能性や気分の調節にかかわるモノアミンの概日リズムに影響する可能性(Prasko, 2008)、3週間の高照度光療法が扁桃体や前頭前野の恐怖に対する反応を抑制すること(Fisher et al, 2014)等が示されてきたが、いまだ十分には解明されていない。そこで、申請者は予備的な研究として、5日間の高照度光療法が海馬や嗅球へ影響を及ぼすという仮説を立て、光照射が健常者の脳に及ぼす影響を、18F-fluorodeoxyglucose(FDG)-PETにて撮像した脳機能画像を用いて検討した。関心領域を両側の左右の嗅球と海馬に設定しSPM8を用いてsmall volume correction(SVC)を行ったところ、光照射群vs.非照射群で右嗅球の有意なpeakを認めた(Kohno et al, Acta Psychiatrica Scandinavica, 2016)が、高照度光療法の期間が5日間と短かったためか、嗅球では有意な所見が見られたものの海馬では有意な所見は認めなかった。そこで今回は、4週間の光照射群を設定し、非照射群と比較して海馬や他の脳部位に影響があるかを明らかにすることを目的とし、FDG-PETによる脳代謝の測定のみならず、MRIによる形態画像を用いて神経新生の直接的な指標になることを試みた。 本研究は健常者に対して行う介入研究であり、長期間の高照度光療法(高照度光照射器を用いて10,000Lux、30min(朝)の光照射を毎週5日間、4週間)を行う群(以下、光照射群)と全く行わない非照射群へ健常者を無作為に割付けし、高照度光の効果をFDG-PETやMRIを用いて両群間で比較した。その結果、FDG-PETでは、4週間後に高照度光照射群でFDGの取り込みが有意に増加しており、これは5日間照射の時の結果と一致した。MRIによる形態画像では、右嗅球の体積も増加しており、この部分における神経新生の促進が推定された。今回の結果からは、4週間の高照度光照射によって右嗅球で神経新生の生じる可能性が示唆されたが、さらに被験者を蓄積する必要がある。
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