脳発達過程、脳臨界期における活動依存性のシナプス可塑性は、神経活動依存性に発現される遺伝子が重要な役割を果たしている。そこで、社会経験の違いに端を発する前頭前野依存性の認知機能障害のメカニズムについて、前年度に引き続き社会経験剥奪マウスモデルを用いてそのメカニズムを検証した。 前年度の成果である生後60日(P60)の時点の前頭前野における遺伝子発現解析でのパルブアルブミン陽性(PV陽性)ニューロンやDAP12の遺伝子発現量の変化というのが、社会経験に応じて経時的にどのように、どの段階で発現量に変化が出てくるのかについて、隔離飼育前(P21)や隔離飼育直後(P35)などを用いて、隔離飼育(社会経験剥奪)がこれら遺伝子発現に与える影響を検証した。 結果、隔離飼育直後の段階(P35)では、PV陽性ニューロンの活動性を制御すると考えられている神経活動依存性の遺伝子群の発現は、P35の段階で有意に隔離飼育マウス群では有意に低下していた。P21での比較検討もおこなった結果、脳の発達過程での神経活動依存性におこる神経回路形成において、社会経験の剥奪により神経活動依存性に発現される遺伝子が一定の時期に抑制性神経の成熟を障害すること、さらにはミクログリアやサイトカインの関与の可能性も示唆された。 以上より、神経活動依存性に発現される一部の重要な遺伝子発現の変化が、前頭前野における興奮性神経伝達と抑制性神経伝達の調和(E/I balance:exciatory-inihibitory balance)の破綻を引き起こし、社会経験の違いに端を発した前頭前野依存性の認知機能障害に結びつく可能性が示唆された。
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