研究課題
エピジェネティクスの主要な分子基盤であるDNAメチル化は環境要因により変化し、遺伝子発現調節に寄与することから、精神疾患の発症における遺伝環相互作用の分子メカニズムに深く関与していると考えられる。大規模なgenome-wide association study(GWAS)により、統合失調症と双極性障害は遺伝要因の重なりが大きいことが明らかにされている一方で、エピゲノム要因の重なりについては十分に検討されていない。本研究では、統合失調症患者の大規模なmethylome-wide association study (MWAS)で同定されたDNAメチル化変化領域について、多数例の双極性障害患者試料を用いて解析を行い、両疾患におけるエピゲノム要因について検討を行った。統合失調症のMWASでいずれもメチル化率の低下が検出された上位5ヶ所の候補領域に関して、双極性障害患者448名ならびに健常者458名の末梢血由来DNAを用いて、pyrosequencing法によるメチル化率の定量を行った。5ヶ所の候補領域のうち3ヶ所(FAM63B、TBC1D22A、染色体16番intergenic領域)において、双極性障害患者と健常者間で有意なメチル化率の差異が検出された。染色体16番intergenic領域の2つのCpG部位では男女ともに双極性障害において有意なメチル化率の低下が認められたが、FAM63Bの3つのCpG部位では男性のみで有意なメチル化率の低下が認められた。TBC1D22Aの3つのCpG部位では、統合失調症ではメチル化率の低下が報告されているのに対し、女性の双極性障害患者において有意にメチル化率が高かった。本研究において、統合失調症と双極性障害において共通ならびに特有のエピゲノム要因が存在する可能性が示唆された。
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