研究実績の概要 |
研究代表者等は、胎生期のマーモセットをバルプロ酸に曝露することにより、自閉症病態モデル霊長類の作出に取り組んでいる。これまでの行動学的解析からDSM-5を満たす自閉症様症状を示すことが明らかになってきている。 この病態モデル個体(VPA群)とバルプロ酸非暴露個体(UE群)の発達期大脳皮質の遺伝子発現解析を比較・解析を行った。先行研究と同じ6つの領野(area9, 12, 14r, 24, TE, V1)、5つの発達ステージ(新生仔、生後60, 90, 180日齢、成体)の遺伝子発現をマーモセット特異的DNAマイクロアレイを用いて調査した。VPA群では、新生仔で長距離神経結合形成に重要な分子の発現低下が認められた。生後60-180日齢で興奮性シナプスのマーカー遺伝子の発現量が上昇しており、この病態モデルでシナプス数が異常に増加していることが推定された。代謝型グルタミン酸受容体関連分子の発現変化も観察され、シナプス特性に異常が生じている可能性がある。また生後180日齢でミクログリアのマーカー分子の発現量が顕著に変動していることがわかった。 自閉症患者では頭周囲長が増加し、灰白質組織が厚くなっていることが報告されている。これは自閉症患者のシナプス刈り込み不全を反映しているものと考えられる。VPA群では、生後180日齢・成体で顕著な脳重量の増加が認められ、さらに灰白質が厚くなっており、本モデル動物の脳形態の特徴は自閉症患者の特徴と類似していることがあきらかになりつつある。VPA群では生後180日齢でミクログリアの突起が細くなり、密度が低下していた。これは、自閉症患者ではミクログリアの機能不全により不適切または活動が弱いシナプスを認識することができず、過剰なシナプスが維持されているという仮説を支持する結果である。
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