研究課題/領域番号 |
15K19764
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
佐藤 まり子 弘前大学, 医学部附属病院, 助教 (30645263)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 上皮間葉転換 / HIF-1α / HIF-1阻害剤 / 低酸素 / 創傷治癒アッセイ |
研究実績の概要 |
腫瘍微小環境における低酸素状態はがん放射線治療の抵抗因子となる。この一端を担うHypoxia-inducible factor-1α(HIF-1α) は再発・転移の促進に働くことが近年明らかとなってきた。 そこで本研究ではまず、ヒト肺腺癌A549細胞を用いて、創傷治癒アッセイにより細胞運動能を評価した。細胞を正常酸素(21%O2)または低酸素(1%O2)下で培養後、細胞培養面に創傷を形成し、24時間後に顕微鏡で観察して創傷幅を計測した。また、低酸素曝露2時間前にHIF-1阻害剤であるLW6、YC-1、JNK阻害剤であるSP600125をそれぞれで培地に投与し、細胞運動性に対する阻害効果を評価した。結果、低酸素曝露により創傷治癒は促進され、細胞運動能は亢進した。LW6、YC-1、SP600125は、いずれも低酸素細胞の創傷治癒を有意に抑制した(P<0.01)。 さらに、蛍光法を用いて、上皮間葉転換(EMT)のマーカーであるE-cadherinの局在を蛍光顕微鏡で観察したところ、低酸素曝露によりE-cadherinは細胞間から細胞内へと局在が変化した。LW6は低酸素細胞でのこの局在の変化を抑制した。 次に、HIF-1α、EMT経路に関与するタンパクであるJNK、p-JNK、E-cadherinの発現をウエスタンブロット法で評価した。低酸素曝露により、HIF-1αだけでなくp-JNKの発現が増加した。一方、LW6投与によりこれらの過剰発現は抑制された。E-cadherinの発現についても、LW6投与により抑制された。 以上より、LW6はHIF-1阻害及びJNK阻害という2つの経路を抑制することで、低酸素誘導性EMTを阻害している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、「低酸素腫瘍細胞に対する放射線照射が与えるEMTへの影響とそのシグナル伝達経路を明らかにして、新規HIF-1α阻害剤であるLW6が、照射後の生残細胞に誘導されるEMTとこれに伴う浸潤能を多段階的に抑制することができるかを検討すること」である。これを達成するために必要な研究小課題として、当初、①低酸素および放射線照射によるEMT誘発に関連するシグナル伝達経路の詳細とそれらの相互作用機序、②LW6が低酸素誘導性のHIF-1を抑制するだけでなく放射線誘導性JNKの活性化をも抑制する、③LW6が低酸素および放射線、および両者の相互作用によって誘発されるEMTの誘導を抑制する、という3点を明らかにすることっとして挙げた。 今回、LW6により低酸素誘導性EMTが抑制されることが初めて明らかとなった。さらに、低酸素曝露によりp-JNK発現が増強し、LW6によりこれが抑制されることも示された。総合的に、本研究はおおむね順調に進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
研究の目的達成のため、前年度に引き続きLW6のJNK抑制作用に起因する低酸素および照射誘導性EMT阻害作用に関して検討を重ねていく。特に照射誘導性EMTの誘導機序やこれに対するLW6の阻害作用に関して実験を行う予定である。 具体的には、まずはin vitroにて、LW6で処理した細胞にX線照射を行い、通常酸素下で培養し、細胞を回収してタンパク質発現量をウエスタンブロット法にて評価する。また、創傷治癒アッセイ、細胞浸潤アッセイを行い、LW6による抑制効果を明らかにする。 さらに、in vivoにて転移の主要なステップである細胞移動、転移巣形成についても評価を行い、LW6の転移抑制効果について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
in vitro実験において、当初の予想よりも少し早い段階で、LW6が低酸素誘導性EMTを抑制するという新知見を明らかにすることができた。したがって、実験にかかる消耗品を節約することができ、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでの研究で、LW6が腫瘍細胞の低酸素誘導性EMTに対する抑制能を有することが明らかとなりつつある。これを確認するため、細胞浸潤アッセイを追加して行うこととし、これに必要な消耗品の購入にあてる。
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