腫瘍微小環境における低酸素状態はがん放射線治療の抵抗因子となる。放射線治療後の生残細胞では、低酸素環境によりHypoxia-inducible factor-1α (HIF-1α) を細胞内に発現して抵抗性を増大するのみならず、転移・遊走能を獲得してこれが癌の再発・転移へつながることが近年明らかとなってきた。 本研究ではまず、ヒト肺腺癌A549細胞を用いて、創傷治癒アッセイにより細胞運動能を評価した。細胞を正常酸素(21% O2)または低酸素(1% O2)下で培養後、細胞培養面に創傷を形成し、24時間後に顕微鏡で観察して創傷幅を計測した。同様に、正常酸素下で10GyのX線を照射後創傷を形成し、24時間後に評価した。結果、低酸素曝露と照射はいずれも創傷治癒を促進した。また、低酸素曝露あるいは照射の2時間前にHIF-1阻害剤であるLW6を培地に投与し、細胞運動性に対する阻害効果を評価した。LW6は低酸素細胞の創傷治癒を有意に抑制した(P<0.01)。また、LW6は照射細胞の創傷治癒についても有意に抑制した(P<0.01)。 次に、HIF-1α、EMT経路に関与するタンパクであるJNK、p-JNK、E-cadherinの発現をウエスタンブロット法で評価した。低酸素曝露により、HIF-1αおよびp-JNKの発現が増強した。一方、LW6投与によりこれらの過剰発現は抑制された。E-cadherinの発現についても、LW6投与により抑制された。照射細胞では、JNK発現が増強し、LW6投与によりこの照射誘導性JNK発現は抑制された。 以上の結果から、LW6はHIF-1阻害およびJNK阻害というEMTに関連する2つの経路の抑制に働くことで、より確実に低酸素/照射誘導性EMTを阻害している可能性がある。
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