R2*マップは磁化率変化を鋭敏に捉えることができるMRI撮像法であり、定量評価も可能である。本研究の目的は、R2*マップによる急性期脳梗塞の塞栓子の診断能を評価することである。 基礎実験では、まず内腔が同心円状の三層に分離された容器を準備し、中央部に5倍希釈ガドリニウム(Gd)造影剤、最外層に蒸留水を入れ、その間の二層目を空とする模擬ファントムを作成した。その後T2*強調像とR2*マップを撮像した結果、T2*強調像では、二層目の空気による磁化率変化の影響を強く受け、中央部のGd造影剤の磁化率効果同定は困難であった。一方R2*マップでは、Gd造影剤と空気の磁化率変化の違いを明瞭に区別できた。 臨床検討の対象は急性期脳塞栓症患者26名で、9名ではT2*強調像・R2*マップ共に閉塞部位に一致した塞栓子と考える信号変化を認めた。7名ではR2*マップの方がT2*強調像よりもより明瞭に塞栓子を反映した信号変化を示し、残る10名はT2*強調像・R2*マップ共に閉塞部位に信号変化を特定できなかった。R2*マップによる塞栓子の検出能は、特に内頸動脈や椎骨脳底動脈など、空気や骨からの磁化率アーチファクトの影響を受けやすい頭蓋底に近い血管で優れていた。R2*マップにより塞栓子の検出能向上ならびに臨床病型や塞栓源の推定が可能となれば、使用薬剤の選択や脳血管内治療による機械的血栓除去術の適応等、治療法選択に大いに貢献するものと考えられる。 一方、定量評価では、心原性塞栓のR2*値(136.6 /msec)と動脈原性塞栓のR2*値(189.9 /msec)との間に有意差はなかった(p=0.332)。更なる症例の蓄積やR2*マップの至適撮像条件の見直し等、今後必要と思われた。 また臨床研究の中で、脳塞栓症だけでなく、急性期脳動脈解離の偽腔内血栓の早期検出にもR2*マップが有用であることを確認できた。
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