研究課題/領域番号 |
15K19833
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
藤田 真由美 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線障害治療研究部, 主任研究員(定常) (80580331)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞浸潤 / 放射線照射 |
研究実績の概要 |
重粒子線癌治療をさらに発展させるためには、再発及び浸潤、転移をいかに抑制できるかが重要である。課題代表者らは、これまでに、炭素線照射はX線照射に比べ、大多数の癌細胞株の浸潤抑制に効果的であるが、PANC-1細胞においては浸潤能を誘導することを見いだした。では、なぜPANC-1細胞では炭素線照射後に浸潤能が上昇するのか。昨年度までの研究により、PANC-1細胞全体の中で、特に照射後に生き残り、高い運動能を示す細胞集団では、細胞の移動方向に強固なミトコンドリアの集積が確認されることをリアルタイム観察像から見出した。では、ミトコンドリアはそもそもPANC-1の細胞運動にどう関わるのか。ミトコンドリアは酸化的リン酸化の重要な場である。酸化的リン酸化の阻害剤でPANC-1の浸潤が抑制できることから、PANC-1は浸潤する際、酸化的リン酸化由来のATPを利用していることが示唆された。酸化的リン酸化によるATP産生ではROSが産生されることが知られているが、PANC-1浸潤細胞はROSに対しても抵抗性であることが明らかとなった。ROSに抵抗性を示す細胞集団は、放射線に対しても抵抗性である可能性が考えられる。今年度の研究により、PANC-1浸潤細胞はPANC-1全体の集団よりも、炭素線照射に対し抵抗性であることが明らかとなった。このことから、PANC-1細胞では浸潤能が高い細胞集団が全体の集団の中に存在し、それら浸潤細胞は炭素線に抵抗性であるため、炭素線照射後により高い確率で生き残り浸潤することができる。そのため、全体のうち浸潤能を示す細胞数が炭素線照射後に上昇していたことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題の目的は、①放射線抵抗性浸潤細胞の特徴をリアルタイム観察像からヒントを得て解明すること、また②これら放射線抵抗性浸潤細胞の浸潤能は元々高かったのか、もしくは照射後のストレス応答の過程で高浸潤能を獲得したのか、明らかにすることである。また①、②の結果から、放射線抵抗性浸潤細胞の浸潤を効率よく抑制するための方法を提案するのが最終目標である。目的①については、初年度(H27年度)及び昨年度(H28年度)に検証を行い、炭素線照射後に生き残り運動能が上昇する細胞集団の特徴として、細胞の移動方向にミトコンドリアが集積すること、また、ミトコンドリアからのATP産生は、PANC-1が浸潤能を維持するのに重要であることを明らかにした。酸化的リン酸化が活性化する細胞では、その過程でROSが多く産生されるが、PANC-1浸潤細胞は、PANC-1全体の細胞集団と比較し、ROSに対して抵抗性であることも明らかとなった。ROSに抵抗性を示す細胞は放射線に対しても抵抗性の可能性がある。今年度(H29年度)の研究により、PANC-1浸潤細胞はPANC-1全体の細胞集団と比較し、炭素線照射に対して抵抗性であることが明らかとなった。この結果から、目的②については、放射線抵抗性浸潤細胞は、細胞株全体の中で元々高い浸潤能を示す細胞集団であり、炭素線に抵抗性で炭素線照射後に生き残ったため、全体のうち浸潤能を示す細胞数が炭素線照射後に上昇していたことが示唆された。 初年度、及び昨年度は細胞のリアルタイム観察から得られた情報を元に、目的①である放射線抵抗性浸潤細胞特徴を明らかにし、今年度は、昨年度までの結果を元に、目的②の結論を見出すことができた。しかし、最終目標である放射線抵抗性浸潤細胞の浸潤を効率よく抑制するための方法を提案するについてはまだ検証中である。その為、今年度は「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究で、本研究課題の目的である、①放射線抵抗性浸潤細胞の特徴をリアルタイム観察像からヒントを得て解明すること、また、②これら放射線抵抗性浸潤細胞の浸潤能は元々高かったのか、もしくは照射後のストレス応答の過程で高浸潤能を獲得したのか、については明らかにすることができた。しかし、最終目標である、放射線抵抗性浸潤細胞群の浸潤を効率よく抑制するための方法を提案するについてはまだ検証中であり、来年度に明らかにする予定である。 今年度までの研究により、PANC-1全体の集団の中には、一部、浸潤能が高い細胞集団が存在すること、それら細胞集団は炭素線に対して抵抗性なため、照射後も生き残り浸潤することができる。すなわち、この集団が炭素線抵抗性浸潤細胞であることが示唆された。また、酸化的リン酸化からのATPの産生を阻害する試薬(rotenone)を添加すると、PANC-1浸潤能を抑制できることも見出した。PANC-1全体の中で浸潤能を有する集団が炭素線抵抗性浸潤細胞であった場合、炭素線照射後にたとえ生き残っても、照射後にrotenoneを添加することで浸潤能をブロックできると期待される。しかし、課題代表者は国際共同研究加速基金の研究を遂行するため平成28年3月21日から平成29年3月30日まで米国にいたため、課題代表者が放医研で重粒子の照射後の浸潤アッセイ実験をするのは困難であった。そのため、この実験は来年度(H30年度)に実施することとした。来年度の検証により、最終目的である放射線抵抗性浸潤細胞の浸潤を効率よく抑制するための方法を提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
課題代表者は、本研究を飛躍的に発展させるため、国際共同研究加速基金を取得し(15KK0323)、平成28年3月17日から平成29年3月30日までアメリカ国立衛生研究所で研究を行った。その間は、代替要員として業務補助員を1名雇用し、密に連絡を取り合いながら本課題を推進した。今年度の目的である、放射線抵抗性浸潤細胞は元々浸潤能が高かったのか、もしくは照射後のストレス応答の過程で高浸潤能を獲得したのか、については結論を見いだした。しかし、本研究の最終目的である「放射線抵抗性浸潤細胞の浸潤を効率よく抑制するための方法を提案する」については、まだ検証中であり、最終的な結論を見出すには、さらなる重粒子照射実験が必要となる。特に、業務補助員は放射線抵抗性の検証実験には慣れていたものの、細胞浸潤アッセイについては経験がなく、課題代表者が不在の中で浸潤アッセイの実験を進めるのは困難であった。そのため、次年度(H30)に予算を繰越、課題代表者が帰国後にさらに検証することにした。以上の理由により、次年度使用額が生じることとなった。 また、次年度の使用計画は、細胞培養で必要となる消耗品(培地や血清、プラスチック器具)に200千円、浸潤解析用プレート及びマトリゲルに300千円、阻害剤や免疫染色で用いる抗体と試薬類に264千円、論文校閲・投稿に100千円とする。
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