重粒子線治療をさらに向上させるためには、治療後の再発及び浸潤、転移をいかに抑制できるかが重要である。本課題の目的は、①炭素線照射後に生き残り、なおかつ高い浸潤能を示す細胞の特徴をリアルタイム観察像からヒントを得て解明すること、また②これら放射線抵抗性浸潤細胞は、元々浸潤能が高かったのか、もしくは照射後のストレス応答の過程で高い浸潤能を獲得したのか、明らかにすることである。さらに、①、②の結果から、放射線抵抗性浸潤細胞の浸潤を効率よく抑制するための方法を提案するのが最終目標である。昨年度までの研究により、まず、①放射線抵抗性浸潤細胞では細胞の移動方向にミトコンドリアが集積すること、また、ミトコンドリアからのATP産生がPANC-1の浸潤に重要であることを明らかにした。酸化的リン酸化の過程ではROSが産生されるが、放射線抵抗性浸潤細胞ではROSに対して抵抗性であることも明らかとなった。また、②放射線抵抗性浸潤細胞は、照射後のストレス応答の過程で高浸潤能を獲得したのではなく、細胞株全体の中で一部、高い浸潤能を示す細胞集団とし元々存在していたことが明らかとなった。今年度は、①、②の結果を踏まえ、放射線抵抗性浸潤細胞の浸潤能を効率よく抑制すべく、酸化的リン酸化の阻害剤、及びROSを消去する抗酸化反応で必須となるグルタチオン合成の阻害剤を用い研究を行った。その結果、複数の阻害剤のうち、特にグルタチオン合成の阻害剤であるL-buthionine-sulfoximine (BSO)の添加により放射線抵抗性浸潤細胞の浸潤を効率よく抑制できることを見出した。本研究課題により、放射線抵抗性浸潤細胞の特徴が明らかとなり、放射線照射後の浸潤抑制に効果的な阻害剤の候補を提案することができた。
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