研究課題
体内臓器の移動や変化を定量的に把握することは、高精度放射線治療において必要不可欠な基盤技術である。本研究では、腫瘍やリスク臓器が放射線治療中に移動、変形していく様子を優れた精度で定量化する新たな方法論を確立し、その手法を臨床データに適用することによって、放射線照射後の抗腫瘍効果や有害事象を予測するための新たなモデルを構築することを目的とした。初めに、混合ガウス分布に基づいて点群間の対応を推定するアルゴリズムを応用し、医師が入力した輪郭を元に、平均の誤差を1mm以内に抑えた臓器の形状の非剛体レジストレーションを実現した。これによって求めた非剛体変換を線量分布のデータに当てはめることで、照射ごとに変形する腫瘍や正常組織に対する照射線量の時間的、空間的な合算が可能となった。続いて、臨床に対する応用例として、子宮頸癌の小線源治療における膀胱および直腸の時空間的な線量合算を行った。興味深いことに、子宮頸がんの腔内照射における時空間的な累積線量が、各照射時の線量体積ヒストグラムを単純合算する場合に比較して有意な値の逸脱を伴うことを明らかにした。すなわち、従来の線量評価法では腫瘍線量を過大評価し、リスク臓器の線量を過小評価してしまう不確実性がある。更に、気管癌に対する小線源治療における時空間的な合算線量の分布と、晩期有害事象の発現部位の間に空間的な相関関係があることを明らかにした。結果、提案手法が放射線治療の晩期有害事象の発現部位の予測に応用できる可能性を示した。
2: おおむね順調に進展している
混合ガウス分布に基づいて点群間の対応を推定するアルゴリズムを核とした非剛体レジストレーションのソフトウェアを独自に実装し、子宮頸癌の小線源治療における正常臓器に対する時空間的な線量合算の手法や、気管癌の小線源治療における晩期有害事象の発現部位を予測するモデルを査読付き論文にて出版した。これにより、従来の線量体積ヒストグラムよりも、より精密な有害事象の予測が本手法によって可能となることを示した。
今後、放射線治療における抗腫瘍効果や有害事象を予測するための新規の方法論の構築を試みる。具体的には、複数患者間で標準化した臓器の形状に、患者ごとの線量分布を関連付ける。このようなデータセットを作り出すことで、臨床的アウトカムに関連する線量分布を、空間的なパターンとして統計学的に検出することが可能となる。現在までに我々は、非剛体レジストレーションを応用することによって、患者ごとに異なる臓器の形状を解剖学的に標準化したテンプレートを作成し、各患者の空間的な線量分布を共通座標上で表現する手法を開発した。こうして共通座標上に表現された線量分布は、voxel単位で互いに数学的な演算を実行することができる。前立腺がんI-125永久刺入術後の前立腺および内部の線量分布を解析対象とし、次元削減手法である主成分分析と線形回帰を応用することによって、術後の尿道症状に関連する傾向性の高い前立腺内の亜部位を同定し、国際学会にて発表した。今後、同手法の有用性を更に大規模なデータセットにて検証していく予定である。
当該未使用額は補助事業を誠実に遂行した結果生じたものであり、繰り越し金額としては比較的少額である。次年度に使用することによってより研究が進展することが見込まれる。
次年度使用予定にある物品費を充填する目的で使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)
Journal of Contemporary Brachytherapy
巻: 8 ページ: 156-63
10.5114/jcb.2016.59688.
Radiotherapy and Oncology
巻: 117 ページ: 555-558
10.1016/j.radonc.2015.08.017.