生体肝移植の治療成績は向上を認めるが、1 年以内に10~20%の死亡例を認め、術後早期の生存率の改善が急務である。我々は、肝移植後早期に継続する血小板減少を認めた症例の治療成績は不良であることに着目した。本研究では、ラット肝移植モデルを用いて、拒絶反応における肝組織での血小板凝集・活性化の病態や役割を解明することを目的とした。モデル作成は可能であったが、モデルの安定性の獲得および実験に十分な個体を確保することは、研究者のエフォート内では困難であった。移植肝は拒絶のみならず虚血再灌流障害、免疫抑制剤等の薬剤性肝障害、過少グラフト症候群など様々な機序により障害を受けるため、ラット虚血再灌流障害モデルに変更して研究を進めることとした。 虚血再灌流障害群では、肝障害マーカー(AST、ALT、T-Bil、D-Bil、LDH、HA)の上昇を認め、有意な血小板減少も認めた。肝組織では、うっ血及び肝壊死を散在的に認め、小腸組織では粘膜障害及びうっ血を認めた。PDEIII阻害剤のミルリノンは、抗血小板作用の他に、cAMP/PKA活性化やNO産生の機序による血管平滑筋拡張、血管内皮保護作用による虚血耐性を誘導し、臓器保護作用を持つことが報告されている。同剤を経門脈的に前投与したところ、肝障害マーカーの改善、血小板増加を認め、肝組織障害及び小腸うっ血の軽減、そして生存率の改善も確認された。今後、免疫染色にて肝細胞や類洞内皮細胞障害及び血小板の動態を評価予定である。
|