研究実績の概要 |
プラズマを照射した培養液(プラズマ照射液:plasma activated medium(以下PAM))が、卵巣癌,膠芽腫,胃癌に対して抗腫瘍効果を有することが確認されている。これまでに4種類の膵癌細胞株に対するPAMによる抗腫瘍効果と、2種類の胃癌細胞株を用いてPAMとpaclitaxelの併用効果について検証を行った。 膵癌(PANC-1,Capan-2,BxPC-3,MIA Paca-2)の4つの細胞株と正常細胞株(膵管上皮細胞:HPDE6/7)を用い、様々な細胞数を設定しプラズマ照射時間も1~5分と変化させ、PAM投与24時間後WST-1 assayにて細胞障害性を調べた。PAMによる細胞障害性メカニズムについて検討するため、細胞の形態変化,Caspase3/7活性についても調べた。いずれの膵癌細胞株も1000細胞数では照射時間1分のPAMで抗腫瘍効果を認めた。5000,10000と細胞数が増加すると照射時間1分のPAMでは細胞株によってその感受性に差異を認めた。細胞数が増加しても照射時間を延長させることで全ての細胞株で抗腫瘍効果を認めた。一方、正常細胞株は癌細胞株と比較しPAMの感受性が低く、PAMに抵抗性があることが確認された。PAM投与後、癌細胞株はPAMにより、核の濃縮,細胞の縮小,細胞膜の空胞形成といったapoptosisに特有の形態変化を認め、形態変化を来した細胞に一致してCaspase3/7の活性化も確認した。以上からPAMは膵癌細胞株においても選択的な抗腫瘍効果を認め、apoptosisが誘導されたことを確認した。 胃癌細胞株(SC-2-NU,AGS)を用いたPAMとpaclitaxelの併用効果は、Control群,PAM単独群,PTX(5ng/ml)単独群,PAM/PTX併用群の4群に分け細胞増殖能試験を行い検証した。SC-2-NU株では、併用群は各々単独群と比較して有意に細胞増殖を抑制することが示された。一方AGS株においては、併用群において増殖抑制効果が高い傾向にあったが有意差は認められなかった。本実験での2剤の併用効果は相加的な効果は存在すると考えられたが、相乗効果の存在を示すには至らなかった
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今後の研究の推進方策 |
PAMによる細胞障害メカニズムの解析を進めていく予定である。 胃癌においては、PI3K/AKT/mTOR, JAK2/STAT3, TGF-β/Wnt pathwayの活性化が、膵癌においては、Ras/MAPK, PI3K/AKT/mTOR, Hedgehog pathwayの活性化が指摘されているため、PAMによる治療後の細胞よりRNAとタンパクを抽出し、RT-PCR法とWestern blotting法によりシグナル変化を検証する。またプラズマが産生する活性酸素種(ROS)がapoptosisを誘導することが示唆されおり、膵癌細胞株におけるROSの検出, ROS scavenger下での細胞増殖能試験を行い、ROSの役割を評価する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
マウス癌性腹膜炎モデルによるin vivo実験を行う上で、用いる癌細胞株, 癌細胞数, 使用するPAMなどの条件設定を確定する。条件が整った上でPAMによる治療効果は、治療後の腹腔内の観察, 生存期間の比較によって検証する。また癌細胞株に対してGFP遺伝子導入を行い、体外的イメージングによる治療効果判定が可能であるかについても検証する予定である。
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