研究課題/領域番号 |
15K19873
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
稲垣 善則 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (40733390)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 肝細胞癌 / 化学療法 / カルシウム / ホメオスタシス |
研究実績の概要 |
Caホメオスタシスに関与する因子の一種であるCa2+-ATPaseの活性阻害効果に着目した研究を実施した。過去の研究により、Ca2+-ATPaseに対する阻害剤であるthapsigarginが細胞分裂が盛んな増殖期の細胞に対して強い毒性を有することを明らかにした。そこで、種々の肝細胞癌細胞に対してthapsigarginを作用させ、in vitroでの増殖阻害効果を解析した。その結果、阻害効果は細胞によっても異なるものの、細胞の増殖を50%阻害する濃度と定義したIC50は0.006-131 nMであった。この数値は、増殖をしない静止期の細胞に対するIC50である6000 nMと比較して低値であった。また、当該化合物のin vivoにおける抗癌効果をマウス腹水癌モデルを用いて検討したところ、化合物投与群のマウスの生存期間は非投与群と比較して有意に延長した。従って、当該化合物は癌細胞の増殖を阻害する活性を有し、生体内で有効性をもつ抗癌剤として期待される。さらに、人工コラーゲンゲルを用いたin vitro解析により、当該化合物は肝細胞癌細胞の浸潤を阻害する活性を有することが明らかとなった。この結果は、Ca2+-ATPaseの活性阻害効果が細胞の増殖のみならず、癌の病態の悪化に重要な役割を有する細胞の浸潤活性にも関与することを示唆している。癌細胞の浸潤におけるCa2+-ATPaseの役割の解明は、Caホメオスタシスの機構の理解とともに、新たな抗癌剤開発に応用できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化合物ライブラリから探索されたCa2+-ATPase阻害剤に関して、in vitroでの肝細胞癌細胞に対する増殖および浸潤の阻害効果、そして腹水癌モデルを用いたin vivoでのマウスの延命効果を見出した。Caホメオスタシスに関与する因子であるCa2+-ATPaseを標的とした肝細胞癌に対する化学療法の有効性を示唆した。この点から、当該年度における本研究計画はおおむね計画通り進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で示されたCa2+-ATPaseの化学療法の標的としての有効性を遺伝学的な解析により明らかにする。Ca2+-ATPase阻害剤であるthapsigarginに対する感受性の異なる複数の肝細胞癌細胞を用いてCa2+-ATPaseの発現をノックダウンし、癌細胞の増殖や浸潤への影響を解析する。さらに、外科的手術により採取された肝細胞癌組織におけるCa2+-ATPaseの発現性を解析し、癌の病態とCa2+-ATPaseとの因果関係に関して臨床病理学的な検討を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画された各研究項目の遂行上、次年度の補助金と合わせて使用したほうが有意義であると考えた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品費と合わせて計上し、本研究を遂行するのに必要とされる消耗品の購入費用に充当する。
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