研究課題
肝胆膵領域癌は、外科的根治切除が施行されても、再発率は高く予後不良な症例が多い。近年、癌研究において癌幹細胞の存在など、癌細胞の不均一性が注目されており、癌の特性である転移、浸潤、治療抵抗性獲得のメカニズム解明に重要な概念である。生体内では細胞間相互作用により不均一性が誘導されるが、そのなかでもNotch経路はは細胞間情報伝達において非常に重要であり、癌組織においてもNotch 経路の異常が多く報告されている。ASPH(aspartate beta-hydroxylase)は水酸化酵素のひとつであり、酵素としての機能はEGF likeドメインにおけるAsp(アスパラギン)、およびAsn(アスパラギン酸)を特異的に水酸化する酵素である。生体内での生理的機能は不明であったが、申請者はASPHが肝細胞癌においてNotch経路を制御しており、ASPH阻害が有望な治療標的であることを世界で初めて示した(Hepatology 2014)。今年度は膵癌に対するASPHの制御について、膵癌株でのASPH過剰発現が細胞の遊走能、浸潤能を亢進させ悪性の形質を誘導することを見出し、この形質を動物レベルでも確認した。さらにこれらの実験モデルでもASPH高発現によるNotch 経路の活性化、ASPH抑制によるNotch経路の抑制を確認し報告した。同様に肝内胆管癌においてもASPHの高発現が知られている。第2世代のASPH阻害剤を用いた検討では肝内胆管癌においてもASPHによるNotch経路を介した形質変化が認められた。さらにNotch受容体と同様に細胞癌ドメインにEGF-likeドメイン構造を持つEpCAMについてもASPHによる制御を明らかにした。ASPH阻害剤の肝内胆管癌に対する有効性が示唆され、この結果を報告した。膵神経内分泌腫瘍におけるASPH発現と臨床病理学的因子の評価を行っている。
2: おおむね順調に進展している
ASPHはNotch経路の細胞外ドメインを修飾することにより、Notch受容体-リガンド間の親和性を変化させることが予想される。本研究ではASPH強制発現株、およびASPH特異的阻害剤を用い、ASPHによるNotch経路制御モデルを用い。膵癌、肝内胆管癌におけるASPH高発現によるNotch経路を介した悪性形質の亢進を明らかにすることができた。またASPH阻害剤による抗腫瘍効果の評価を行うことができた。また、ASPH、Notch経路による細胞間相互作用制御を評価するための実験系確立を試みている。ウイルスベクターを用いたASPH導入、shASPH導入の技術は確立しており、遺伝子導入、細胞株樹立を行っている。また新たに膵神経内分泌腫瘍におけるASPH高発現の意義を臨床病理学的因子との相関をもとに解析が進んでいる。
タイムラプス顕微鏡による細胞運動、増殖などのin vitroでのリアルタイム観察がを行う。ASPH抑制では細胞の遊走能、浸潤能が抑制されることはすでに明らかになっているが、実際の細胞間接着などにどのような変化があるのかリアルタイム観察の報告はない。タイムラプス顕微鏡による観察を行うことにより、Notch受容体とリガンドの親和性変化が癌細胞の増殖、遊走能にどのような影響を与えるのかを直接観察が可能であり、新たな知見が得られると予想される。これらの細胞表現型変化の観察をもとに、細胞蛍光免疫染色、ウェスタンブロッティング等による、細胞内シグナル伝達解析を行う。特にNotch経路の細胞内ドメイン制御による転写活性変化ではなく、受容体―リガンド結合阻害に特徴的な表現系変化に着目した解析を検討している。また、膵神経内分泌腫瘍におけるASPH発現、Notch経路制御についての解析も予定している。
ASPH過剰発現株、shASPHによる発現抑制株を作成し、マウス皮下に投与し腫瘍増性能を評価する予定であった。そのための免疫抑制マウス購入を予定していたが、細胞株の樹立が間に合わなかったため。
細胞株が樹立されたのちに、免疫抑制マウスを購入する予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件)
Nihon Shokakibyo Gakkai Zasshi.
巻: 113 ページ: 790-797
10.11405/nisshoshi.113.790.
PLoS One
巻: 11 ページ: -
10.1371/journal.pone.0150336.
Journal of Cancer Research and Clinical Oncology
巻: - ページ: -
Plos One
10.1371/journal.pone.0146564.
Journal of Gastroenterology
International Journal of Oncology
巻: 48(2) ページ: 657-69
10.3892/ijo.2015.3299.
Oncotarget
巻: 6(2) ページ: 1231-48